第477話 マスコミ対応

「さて、と。そろそろ慣れたな。みんなはどうだ?」


 賀東さんが思い思いに体を動かす面々に尋ねる。


「私は大分慣れました。でも……本当にもの凄いですね。補助術自体もそうですけど、A級の人たちっていつもこのレベルのステータスで戦ってたわけですか……」


 ギルド《黒鷹》の世良さんが自分の手をにぎにぎしながらそう答える。

 今の彼女のステータスは、自己申告によればB級の倍、A級相当ということだからそう言う感想になるのだろう。

 

「今の恵はA級でも中堅クラス程度だろうがな。しかし十分に能力を使いこなせてるから……ステータスさえ上がればA級としても十分やってけるぜ。流石はうちの副ギルドリーダーだ」


 賀東さんがそう褒める。


「ほ、本当ですか!? でも、最近ステータスの上昇が停滞してて中々うまくいかないんですが……」


「B級になると極端に落ちるからなぁ。迷宮もかなり強敵の出るところに行かねぇと難しい。だからA級以上の冒険者の絶対数は少ない。別にB級でも遊んで暮らせるくらいには稼げるからな。それ以上を目指すのは、頭のネジの外れた奴だけよ」


「そのネジの外れた人がこの場に二人いるんですけどね……」


「二人か? A級は確かに二人だろうが、目指してる奴はお前も含めて、この場に六人いるぜ。全員仲良く頭のオカシイ奴だ」


 賀東さんがそう言った。

 確かにそうだな、と俺は思う。

 そして、そんな人間の一人に俺も数えてくれることが嬉しかった。

 俺以外はみんな、A級とB級だからなぁ……。

 未だにE級なのが気が引けるところはある。

 そんな俺の表情を読んだのか、賀東さんは、


「おい、創。お前なにか引け目に感じてるのかもしれないが、そんな不要だぜ。それどころか今回の攻略の要だろうが。お前がいなけりゃ、《転職の塔》の迷宮の攻略はそれこそ、玉砕に近かったが、今かかってる補助を味わって、みんなの目に希望が宿ってきてるんだぜ?」


「え?」


 そこまでか?

 と思ったが、確かに皆の様子を見ると、そんな雰囲気があった。

 特に、《黒鷹》と《影供》のB級三人については最初にここに来て出会った時よりも表情に血の気を感じる。

 元々、《影供》は死ぬつもりで攻略してるという話だったが、生きて出来るならばその方がいいのは当たり前と言うことかな。

 いや、当然か。

 そもそも弔い合戦というのは、死んでも良いかもしれないが、死なないで達成できるのが一番だろうから。


「攻略が終わったら、お前の名前は知れ渡るかもな……あ、お前、名前は公表するか? しないで謎の攻略メンバーとしておくことも出来るが……」


 ふと思いついたように賀東さんがそう言う。

 

「そんなことが出来るんですか?」


「あぁ。俺たち、というかお前以外はすでに名前が知られてる奴らばかりだから特にその辺に躊躇は無いが、お前はいきなり名前を知られることになるだろうからな。しかもE級という肩書きつきでだ。変に目をつけられる可能性もあるし、隠した方がいいかもしれねぇ」


「うーん、俺もギルドのサイトには普通に名前も載せてますけど……」

 

「《転職の塔》の迷宮が攻略されたら、普通にマスコミが来るぞ。お前は確か、以前、雹菜のマネージャーもどきやってたろ。あれくらい粘着されると考えてみろ……望むか?」


 賀東さんはその時にテレビ局で何度か目撃したことがあるし、向こうも顔を覚えていたのだろう。

 その助言から想像してみるに……うん、無しだな。


「遠慮したいです……」


「だよなぁ……俺もたまに嫌になるくらいだから。じゃあ、そういうことで処理しておくぜ。ま、お前の級が上がるか、別のことで名前が知られて今回のに参加しててもおかしくないって感じまで名声が着いてきたら、後でしれっと公表すれば実績として言えるだろう。それでいいな?」


「よろしくお願いします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る