第476話 補助のお試し

「じゃあ、かけますね」


 そこから、俺は補助術……つまりは《マグスガルド陣術》を構築する。

 たくさんの人にかけられる、と言っても全く集中しなくても余裕というわけでは流石にない。

 この人数……七人にかけるにはそこそこの集中を必要とする。

 相良さんは戦闘後疲れているかもしれないが、別にこれから戦うわけではなく、とりあえずかけた感じを理解してもらうためにかけようということでかけている。

 俺の練習のためもあるな。

 実際に《転職の塔》ダンジョンに行った時は、まさに七人に一度にかけなければならない。

 その上、部分強化か全体強化か、部分強化にしてもどの部分にかけるか、補助のかかってる時間、強化率の管理などをしないとならないから、大変なのだ。

 まず、まとめ掛けして感じを掴み、計画を立てなければならない……。

 以前の俺だったらそんなことは百パーセント無理だった、と言えるが、器用と精神の上昇に伴って、そういう作業もわりかしそこまで苦じゃないように感じている。

 ステータスの数値が、一体何にどのように影響を与えているのかは、今でもはっきりとはしていないが、こういう作業をしていると、あのステータスの効果なのではないか、というのはある程度感じる。


 ちなみにとりあえず、今、全員にかけているのは《全体強化Ⅰ》」だな。

 全員の体に同時に陣術の陣を魔力で描いていく。

 時間自体はさしてかからない。

 そんなに時間をかけていたら、実戦ではまるで使えないということになってしまうからな。

 それに、今は全員静止してくれているから余計に楽だ。

 あとである程度動きながらもかけられるか試させてほしいところだ。

 一応、雹菜としている訓練ではかなりの高速にも対応できるようにはなっているのだが、雹菜の動きに俺がだいぶ慣れているから、というのもある。

 あまりにも予測できない動きだと、俺も狙いをミスる可能性がある。

 ただ、陣術は都合のいいことに、書き始めればその人が動いてもピンで止めたようにその人に連動して動く性質がある。

 だからそういう意味では楽なのだが、やはり少し間違えると、動いた瞬間に描き間違えたりもあるからな……。


 そんなことを考えながら全員の陣を完成させると、魔力が律動し、《全体強化Ⅰ》の効果を発揮し始めた。

 それを全員が感じたようで、自分の体を観察しながら、


「……おぉ、これが創の補助術か……!! 確かに身体中から力が漲るようだぜ……!」


 と、賀東さんが言い、続けて、


「体が軽いです……今ならなんでもできそうな気さえします……! これは一体どれくらいの強化率が……?」


 と世良さんが尋ねてきたので、俺は答える。


「これは二倍ですね。全ての能力値がそれくらいになっているはずだと」


 すると世良さんは《ステータスプレート》を呼び出し、その内容を見た。

 プレート上ではどのように表示されているのか、気になるのだろう。

 そして確認した上で、


「……本当に二倍になっています! これだと、素の状態のA級クラスはありますよ……!!」


 そう言った。

 B級のステータスの二倍でA級ということで、A級の格の違いがわかろうと言うものだが、B級からA級になる時には突然、ステータスがとんでもなく上がったりすることがあるようなので、なるのにものすごく時間がかかる、とは限らないらしい。

 S級なんかだともはや色んな意味で例外だというが、彼らは正直言って人間性もズレているので微妙なところだ。

 社会性なんかも含めて、紛れもなく日本でトップを張れるのはむしろA級であろうと言われているのはそれが理由だった。


「じゃあ、みなさん、いろいろ試してみてください。時間はとりあえず五分くらい持続するようにしてありますので」


 俺がそう言うと、全員が思い思いの様子で体を動かし始めたのだった。

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