第475話 何から試すか

「いきなり模擬戦で、ってなると、雹菜みたいに慣れてないと手加減とかそういうのミスる可能性があるので、まず皆さんにかけてみてもいいですか?」


 俺の補助術について概ね理解してもらったところで、俺は全員にそう尋ねた。

 いや、全員じゃないか。

 今、やっと起き上がった相良さんがステージからこっちに歩いてきたところだ。

 彼は、


「ええと、申し訳ない。今、どういう話になってるのですか?」


 そう言って、彼に賀東さんがかいつまんで説明すると、


「なるほど! 大体理解しました。それにしても、創さんの補助術は本当に凄いですね……雹菜さんは確かに強いですが、本気を出してなお、傷を負わせることもできずにやられるとは思ってもみませんでしたよ」


 そう言った。

 これに雹菜が、


「そこまで余裕があったわけでもないんですけどね。最後はスキルの威力勝負みたいな感じでしたし」


「雹菜さんのスキルですか、あれはかなり洗練されていましたね。私のしたことと似てはいますが……もっと一体的だったというか。私のはあくまでも、複数のスキルの同時発動に過ぎませんし」


「あれについても説明してもいいかもしれませんね……あれは、《魔氷鎧》《魔氷剣》そして《魔氷翼》の発展系というか……その三つを集中的に訓練していたら、気づいたらアーツとして出現していたものです」


 お、話すのか、と思った俺だった。

 まぁ別に敵同士というわけでもないしな。

 簡単に真似できることでもないし、ここにいるメンバーは迷宮の最前線を攻略し続けている者だ。

 一緒に《転職の塔》を攻略することを考えても、実力をつけてもらった方がいいとも言える。

 とはいえ、今日明日でなんとかできるとも思えないが、相良さんは近いスキルをすでに似たような運用をしているわけだし、ヒントがあればアーツまで発展させられる可能性はある。

 相良さんは雹菜の言葉に頷き、言う。


「そういうものだったのですか……! だから余計に出力差が出たのかもしれませんね。それに、細かい制御もやはり、雹菜さんの方が上だった。これは補助など関係ない部分でしたが……」


「スキルの並列発動からアーツに移行して感じたのはまさにそれで、今までより遥かに自由度が上がりましたね。ただ、種族の補正もあるかもしれませんが……」


「魔族系ですか。一応、私にも出ているのですが、感覚がずれたらまずいと考えて試せていないのです。そういうことでしたら、選択してみてもいいかもしれません……いやはや、色々なヒントをありがとうございます」


 それから、賀東さんが、


「話を元に戻すぜ。で、とりあえず補助術をみんな試してみる感じで俺はいいと思う。やっぱり、細かい感覚はかけてみてもらわねぇとなんとも言えねぇからな。何から試すのがいいか……」


 そう言ったので、俺は、


「まずは全体強化から、がいいと思います」


 と提案する。

 それに、


「なぜだ?」


 と聞いてきたので、俺は答える。


「強化率が低いのと、部分強化との違いを分かってもらうのにはまず全体強化の方を試してからの方がいいかなと。いきなり腕力だけ五倍とかになっても振り回されてしまうかもしれないので」


「なるほど、道理だな。体全体にかかってるなら、いつもとさして感覚はかわらねぇか。出力だけでかくなる、と」


「そういうことですね」


「……よし、俺はそれでいいと思う。みんなはどうだ?」


 そう尋ねた賀東さんに、その場にいる者たちは皆頷いたので、賀東さんは俺に、


「じゃあ創、頼むぜ」


 そう言ったのだった。

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