第474話 強化率

「賀東さんと、この場にいるB級全員が戦うってことで承知したけど、補助術どんなのかける?」


 俺が尋ねると、皆で顔を見合わせた。

 どうやら考えていなかったらしい。

 まぁ、そもそも俺も詳しく補助術の種類を伝えていないからな。

 まだ雹菜にしかかけていないわけだし。

 

「……とりあえず、大雑把でいいからどんなのかけられるか教えてくれるか?」


 賀東さんがそう言ったので、俺は頷いて言う。


「ええと、大きく分けて二つですね。全体強化と、部分強化。全体強化っていうのは……ステータス的にいうと、その全てを同時に強化するってことです」


「それは大変なんじゃないのか? 補助術はかける範囲が広くなればなるほど、魔力をたくさん消費するんだが」


 賀東さんのそう言ったので、そうなのか、と俺は少し驚く。

 その理由について、俺は言う。


「普通の補助術士がどうなのかについて、俺はよく知らないんですけど、俺の場合は必ずしも範囲で決まるわけじゃないですね」


「と言うと?」


「全体強化の方が、部分強化よりも楽な場合がある、ということです」


「言ってることはわかるが、具体的にはどういう感じだ?」


「そうですね、たとえば……賀東さんに全体強化をかけた場合の手間とか疲労度を一としたら、部分強化はニとか三とかになることがあります。それはどういうことかというと、全体強化ってアバウトなかけ方になるんですよね。ステータスを全部二倍にするけど、細かい調整は一切しない、みたいな。使われてる方からすれば、単純に全ての能力値が倍になるので、感覚的にも大きな変化はなくて、使いやすいんじゃないかと思います」


 実際、うちのギルドのメンバーで色々試してもらったが、そういう感想が多かったな。

 

「……なら、それが一番いいんじゃないか?」


 当たり前のことのように賀東さんはそう言ったが、俺は首を横に振る。


「確かに悪くはないし、急いでる時とか、普段使いとかにはいいんですが……もっと効率的に強化したいという場合には部分強化の方が都合がいいです」


「それはなんでだ?」


「これは簡単な話で、部分強化の方か強化率を高く設定できるから、です。全体強化だと、今の俺じゃあ頑張っても二倍、死ぬ気でやれば三倍くらいまでですけど、部分強化は普通にかけても五倍くらいに出来ます。しかも、重ねがけも出来るので、やろうと思えば、元の二十五倍くらいまでいけます……」


 そう言うと、これには皆、言葉を失ったような顔をした。

 そんな中でも、一番最初に口を開いたのは、やはり賀東さんだった。


「……二十五倍って、マジでか。それだけ強化できりゃあ、どんな相手も楽勝じゃねぇか……?」


「それがそうとも言い切れなくて……」


「その理由は?」


「二十五倍に出来るのは、部分強化だけです。そして体の一部分にそれだけの強化がかかってしまうと、他の部分がついていけなくなったりして、危険なんですよね……たとえば、さっき雹菜に脚力強化をかけましたけど、そこを二十五倍強化にしてしまうと、出せる速度に体がついていけなくなって、体を壊す可能性があります」


 あまりの速度に内蔵に負担がかかったり、とかだな。

 腕力強化ならもっとわかりやすくて、肩とか胸の筋肉が断裂したりする可能性も出てくる、みたいな感じだ。

 慣れておけばそういう危険も可能な限り低減できるが、それでも意識しておかないと危険なのだ。

 流石にこの説明で、皆それは理解できたらしい。

 経験的に、そういう無茶をしたこともある人々だろうから、余計に納得感があるのかも知れない。


「……リスクなく強力な力を振るえるわけじゃない、ってことか。まぁ、それでもメリットがでかいのも間違いない。やっぱり、今日のうちにしっかり慣れておく必要があるな」


 賀東さんがそうまとめた。

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