第473話 実力を出し切るためには

「本気って……」


 まさか俺とってわけじゃないよな?

 いや、流石にそれはないか……。

 賀東さんはA級でも上澄みになってくる冒険者だ。

 それをE級の俺が相手をするなど出来るはずもない。

 となると……?


「もちろん、創。お前と戦おうってわけじゃないからな?」


 念の為、と言った感じで賀東さんがそう続けてくれて俺はほっとする。


「じゃあ、誰とですか? 雹菜と相良さんは今は限界っぽいですし……」


 残ってるメンバーはパッとしない、とか言うと怒られそうだが、一対一じゃ賀東さんの相手にはなりそうもないB級とE級しかいないわけで、そう言ってもバチは当たらないだろう。

 そう思った俺に、賀東さんは、


「別に一対一にこだわる必要もねぇんだ。俺が本気でやれりゃあいいんだからよ。普通の補助術士だったら、そんなことも頼めないが、創。お前なら別なわけだろ?」


「あぁ……なるほど」


 通常の補助術士なら、最高でかけられても三人まで、ということだから、補助術のかかった者同士のマッチを望むなら、一対二くらいまでが限界になるだろう。

 しかし、俺の場合は違う。

 ここにいる全員にかけることも可能だ。

 そしてそういうことなら……B級は《黒鷹》には世良さんと、もう一人、そして《影供》にも二人いるわけで、賀東さん一人対、B級四人で、ということなら出来るだろう。


「念の為聞いておくが、五人同時に補助術はいけるか?」


 がとうさんがそう尋ねたので、俺は頷く。


「出来ますけど……それでもやっぱり賀東さんが圧倒してしまいそうな気がしますね」


「そうか?」


 実際、通常の状態で賀東さんならB級四人くらいなら普通に相手に出来るはずだ。

 双方に補助術をかければ、結局どちらの地力も上昇するわけで、そうなるとやっぱり差は埋まらない。

 賀東さんにかける補助を少し弱くする、とかすればいいかもしれないが、今の賀東さんが望むであろう、ひりつくような戦いにはならないだろう。

 そんな話をすると、


「確かにそれもそうか……うーん、どうするかな。補助術弱くしてもらうか……? だがそうすると勿体無いような気も……訓練としてもなぁ……」


 などとぶつぶつ言い始める。

 そんなところに、


「……何を独り言呟いてるわけ?」


 と雹菜がステージから降りてやってきた。

 もちろん、今の賀東さんについて評した言葉である。

 そんな彼女に、俺は説明する。


「いや、それがさ……」


 すると雹菜は、


「なるほどね。そういうことなら私も参加する感じでいいんじゃない? まぁ、私もB級だから焼け石に水というか、大した戦力にならないかもしれないけど」


 と言ってくる

 それを聞いた世良さんが、


「いえいえいえ、さっきの戦闘を見れば雹菜さんがもはやB級の枠に収まっていないことは明らかですよ。昇格試験が直近であれば即座に受かります」


 と言う。


「そうかしら? そうだったらいいんだけど……A級昇格試験は不定期だから中々上げられなくて。申請してるんだけどね……」


 B級以上の昇格試験はいつも決まった時期にやっているというものではない。

 その理由は簡単で、そもそも毎回受ける人間が集まるかどうかも謎だし、受かるほどの実力がある者が受ける者の中にいるかどうかも全く保証されないからだ。

 受験者から申し込みを受けて、その時点である程度可能性あり、となった場合にやっと試験を行う、という流れになるのである。

 逆に、申し込んでから極端に迅速に行われる時もあるが、それぞれだな。


「その辺りは協会や冒険者省の事情でしょうから……ともかく、雹菜さんが参加されるのでしたら、うちの賀東も思う存分戦えるかと」

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