第472話 決着

「あー、あれ使ったかぁ」


 氷の鎧に包まれる雹菜を見ながら俺がそう呟くと、賀東さんが、


「なんだ、お前あれ知ってるのか?」


 と尋ねてくる。


「賀東さんは知らなかったんですか?」


「……俺は初めてみる。あれは……」


「……《魔氷鎧まひょうがい》ってスキルで……効果は見ての通りです」


 より厳密に言うなら、《氷姫剣術》の中に含まれるスキルで、アーツに片足突っ込んでいるのだが、そこまではいいだろう。

 というかそこまで話すなら流石に雹菜自身の許可がいるからな。

 ただ、大雑把なスキル名だけ言うのは別に構わないといつも雹菜は言っているので問題ない。

 それだけでは何も分からないからだ。

 同じものを身につけることはできない、という意味でな。

 ヒントくらいにはなるかもしれないが……。

 実際、賀東さんはなるほど、と頷いて言う。


「単一のスキルなのか……大智のとは違うな。いや、まだ大智のはそこまでの練度に至ってない……? アーツか……?」


 ほぼ正解に辿り着きかけている辺り、これが高位冒険者の経験や知識というものなのだろうな、と理解させられる。

 まぁ、雹菜もある程度情報を出すつもりで使ったのだろう。

 何も知られたくないならここで使う理由もない。

 これはあくまでもただの模擬戦なのだから。


「……相良さんも同じような感じになってますが……」


 今度は俺も尋ねると、賀東さんは答える。


「大智のは《影鎧》《影剣》《影槍》っていう、三つのスキルになるな。どれも単一でも発動させられるが、全部まとめて制御することで攻防に隙がないように運用してるんだ。って言っても、かなりの魔力と精神力を使うから、最後の切り札に近いらしいが」


「なるほど、だからここまで使わなかったわけですね」


「そういうこった……お、ぶつかるぞ!!」


 見れば、空中に浮かぶ雹菜と地に足をついている相良さんが、体に力を入れた。

 そしてその瞬間、二人は風になる。

 とてつもない速度だったが、それだけではなく、存在全体に込められた魔力、そしてその圧力は、とんでもないものだった。

 もしもビルにでもあの感じで体当たりすれば、軽く数棟倒壊させかねないほどの力……。

 あんなものをお互いに向けて大丈夫なのか、と思ってしまうが……。


 そして、二人は巨大な轟音と共にぶつかる。

 その瞬間、青白い冷気と、漆黒の影が俺たちの視界を遮るように膨らんで広がった。


「……チッ、何も見えねぇ……!!」


 賀東さんがそう言い、俺も続けて、


「二人は……!?」


 と叫ぶ。

 しばらくして、冷気と影が晴れてくる。

 そこに立っていたのは……。


「……こうなったか。ある程度予想していたとはいえ……実際に目の当たりにすると、驚くな」


 賀東さんがそう呟く。

 彼がこう言うということは……。


「……雹菜! 勝ったのか……」


 そう、ステージ中心で立っていたのは、氷の鎧に身を包んだ雹菜の方だった。

 対して相良さんの方は、地面に仰向けになって、雹菜の剣を喉元に突きつけられている。

 影の鎧も霧散してしまっているし、剣と槍も消えているようだ。

 

「……創、お前の補助術の威力が雹菜を勝たせたみたいだな」


 賀東さんがぽん、と俺の肩を叩いてそう言う。


「いや、頑張ったのは雹菜で……」


「それも否定はしねぇが、普通に戦えばやっぱり、まだ大智が勝ってたと思うぜ。間を埋めたのは間違いなくお前の力だ。自分の力を正確に評価しろ。卑下はするな」


「……そう、ですね。ありがとうございます」


「しかし、こうなってくると、俺もお前の補助術の力を存分に味わいたいな」


「もともと軽く掛けてみる、というのは全員にやる予定ですよね?」


「いや、そんなんじゃなくて本気で戦ってみたくなった」


「え?」

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