第240話 小休止
「特異個体か……やっぱり相当強いんだろうな?」
俺がそういうと、エリザが頷いて答える。
「もちろんだ。小規模な暴走でも、特異個体の討伐難易度は三つ星クラスと言うからな。そう簡単には……」
エリザが続きを話しかけたところで、
『来たぞー!! 魔物の群れだぁ!!』
という声が、街を覆う石壁の上から響く。
あそこから遠目に確認したのだろうな。
「俺たちはどうしたものか…。」
俺がそう言うと、ミリアが、
「私たちはまだ所詮、十星に過ぎませんから、後方支援を主にと言われちゃいましたからね。まずはそれを頑張りましょう」
と落ち着いて言う。
実際、冒険者組合から指示されたのはそれだけだ。
もしも危なくなったら遠慮なく逃げろとまで言われている。
てっきり、最後まで戦う義務とかそういうものが課されると思っていたので意外な話だった。
しかし、そんな義務を一々課していたら人類なんてすぐに滅びてしまうと言われて納得した。
人類と魔物は、その勢力を一進一退でバランスをとり続けている歴史がある。
片方が完全勝利することもあれば、あくまでも痛み分け、例えば魔物が街を崩壊させたが、大多数の市民は逃げ延びて助かったとか、そいういうこともよくあることだという。
遠くまで逃げ延びて、またそこで街を一から築く。
また魔物が襲ってくる。
勝つか負けるかして……とそれを延々と繰り返しているわけだ。
まさに生存競争だな。
「ミリアは危ないとは思わないのか? すぐに逃げようとか……」
「本当に危険になったらそうしますけどね。今はまだ大丈夫ですから。出来ることをやって……ダメな時はダメな時。そういうことです」
「達観してるな……エリザは……」
「私も同感だな。私の場合、八つ星だから、後方支援だけというわけには流石にいかんかもしれないが……む、交戦に入ったか」
壁の向こうから、ものすごい音が聞こえ始める。
壁の外には七つ星以上の冒険者たちが陣を張って魔物の群れを迎え撃っているのだ。
その様子はここからは見えないが……。
「やはり規模は小さめのようだな。飛行系魔物もいないようだし、早々に終わるだろう」
エリザがそう言った。
「わかるのか?」
「以前、別の街で暴走に巻き込まれた時は酷かったからな……飛行系魔物が他の魔物を街の壁の中へと投げ込んだりしてきてな……一般市民にかなり被害が出た」
「なるほど、そういう可能性もあるのか……でも確かに、今回は別に空に魔物はいないっぽいな」
「あぁ、不幸中の幸いだな。とはいえ、一日二日では終わらんだろうから、後方支援も重要な役割になる。二人とも、頑張ろう」
そう言ったので、俺とミリアは頷いたのだった。
******
「……どんな感じですか?」
暴走が始まって二日目の昼。
俺は補充の矢を持って、壁の上に登っていた。
そこには昨日知り合った七つ星の弓術士であるエズラという髭面の冒険者がおり、補給を待っていた。
「今は小休止と言ったところだな。だが、どうもこの感じだと後続はない感じだ。ほぼ守り切ったと言っていいんじゃねぇかな」
「そうですか……よかった。十星になったばっかりだっていうのに、いきなり街がどうにかなってしまったらと不安でしたよ」
「お前もついてねぇな、ハジメ。だが、お前は十星って感じはしねぇけどな……ゴズラグにも勝ってるだろ。前線出てもよかったと思うぜ」
「別に命大事に生きてるわけでもないんですが、指示されたのは後方支援ですからね。従いますよ」
「真面目なやつ……ん?」
そこで、ふとエズラが言葉を止める。
「どうしたんですか?」
「いや、なんか向こうで悲鳴が聞こえた気が……」
「あっちは街の中じゃないですか」
「まぁそうなんだが……火事場泥棒でも出てるのかね? 見に行きてぇが……」
「エズラさんは持ち場離れられないでしょう。俺が行ってきますよ。エリザ! ちょっと一緒にいいか!」
少し離れたところで俺と同じく補給をしているエリザの姿を見つけ、呼ぶ。
一人で行ってもよかったが、何か犯罪行為を見つけた時に、俺一人だと証人の問題が出そうだと思ったのだ。
「何かあったか?」
すぐにやってきたエリザに事情を説明すると、
「よしわかった。すぐに行こう」
そういう話になって、俺たちは悲鳴が聞こえたという方向に向かって走った。
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