第241話 穴
声の聞こえた場所。
裏路地に走って辿り着いた俺たち。
そしてそれを確認すると同時にエリザが剣を抜きながら、
「……あれは……ゴブリン!?」
と叫んだ。
俺もまた同時に剣を抜いている。
「とにかく倒すぞ!」
「あぁ!」
言いながら、俺たちはゴブリンの方へと向かっていった。
幸いというべきか、まだ襲われた人間はいないようで、遠巻きに一般市民がゴブリンを見ているだけだ。
逃げればいい、とは思うが、誰かが見ていないとどこに行くかわからないというのがある。
女子供はもう避難したようだが、比較的体力があるのだろう男たちが木の板を持って、しかし手も出せずにいるようだった。
「俺たちがやる! 下がっててくれ!」
「悪い……頼む!」
そして、彼らは引いていく。
「うらぁぁっ!!」
剣を振りかぶり、立ち向かう。
そこにいたのはいわゆるノーマルゴブリンであるが、
ーーガキィン!
と、一撃目は弾かれた。
ニヤリ、と笑みを浮かべたゴブリンだったが、
「……残念だったな」
密かに後ろの方に回っていたエリザには気づけなかったようだ。
彼女がゴブリンの胸元を後ろから突き刺し、そのまま絶命したのだった。
呆気ない幕引きだったが……。
「普通のノーマルゴブリンよりなんか強かったな……」
「暴走で出てくる魔物は、長く生き残ってきた個体が多い。その分、経験を重ねて強くなっていることも少なくないな」
「一人だったらもう少し時間がかかってた。エリザと一緒で良かったよ……しかし、一体どこから現れたんだ? 門は全部しっかり閉じられてたはずだろ?」
「そうだな……探さなければ」
と、エリザが言ったところで、
「おい、あんたら! 冒険者か!? だったらこっちに来てくれ!」
と、さっきゴブリンの動きを木の板で牽制していた男たちの中の一人が俺の腕を引っ張る。
「お、おい。どうしたんだ……」
「壁が一部崩れてるんだ! そこからさっきのゴブリンが来たから……」
「なるほど……そりゃやばいな。エリザ!」
「あぁ!!」
******
辿り着いたそこは、街の中でもスラムと呼ばれる区域だった。
ここなら確かに、外壁が崩れていても目立たないだろう。
事実、そこには資材というかゴミが山と積まれていたが、その隙間からゴブリンが数匹這い出そうとしていた。
「これは……まずいな。まず倒さないと。あとあんた、冒険者ギルドに走ってここのことを伝えてきてくれ!」
俺が案内してきた男に言うと、
「あぁ、すでに他の連中も行ってるとは思うが、わかった。あんたらも武運を!」
と言って走り出す。
「まだそれほど魔物どもは気付いてないのか、それと外壁の外の魔物の数が少ないのか、大した数ではないな」
エリザが剣を振るいながらそう言う。
「どっちにしろ、ここはさっさと塞がないとまずいと思うけど……塞げるのか? 厚さが半端じゃないが」
魔物の襲撃に備えた外壁だけあって、その厚みは相当なものだ。
それがどうして穴が空いてるのか、と言う気もするが……。
「こういうことはたまにあるから、やりようはある。まず、魔物避けの類をありったけここらに集めて近づけないようにする。それから長期間かけて修復するのが常道だな」
「そんなものあるなら、街の外壁中に魔物避けを……」
「高価だし、数も多くないからな。それでも普段はバラバラの位置に置いているが、崩されたらまずい位置とか、外壁が心もとない所とかに集中させてる」
「そういうことか……」
それならどうしようもない。
とりあえず俺たちに今できるのは、ここで魔物を後援が来るまで倒し続けることだけだった。
そんな時間がどれだけ続いただろう。
「……待たせたな! 状況は!」
冒険者ギルドからの後援がやってくる。
中には何か魔導具を持っている者や、職人と思しき者もいる。
これからここですぐに修復を行うのだろう。
「今のところは大した魔物はいませんが、数匹ずつ入ってこようとしてます」
「外側にも今、冒険者を集めてるからもう大丈夫だ。変わるから、お前らはもう休め。よくやった」
「はい……」
そこでやっと、俺たちの仕事は終わった。
その後、魔導具が起動し、外側から入ってくる魔物の数は激減した。
それからしばらくして、ついに、入ってくる魔物はゼロになったが、外側ではゼロにはなっていないようだった。
だが、そこから壁の修復が始まったので、そこでやっと安心し、俺たちは宿にまで戻ったのだった。
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