第505話 第三エリア

 ついに第三エリアまで辿り着く。

 この辺りから、俺のくじに書かれていた魔物が出現する可能性が出てくるな。

 オリーブトレントと首狩兎については森の中にランダムに出現することが多く、第三エリアと第四エリアをひたすらに歩き回ればいずれ見つかることだろう。

 まぁ、可能性を考えるなら第四エリアのほうがいいだろうけどな。

 距離的なことまで勘案すると第三エリアで見つけられれば御の字なのだが……。


「……無理そうか」


 結構この辺りまで来ると、人の姿というか、試験開始を告げられて直後、一番最初に走り出した組と思しき冒険者たちの姿が確認できるようになってきている。

 この辺りで粘ることを決めた者たちなのだと思う。

 俺と違って、比較的、ゲットしやすいアイテムがクジで指定された人々なのも想像がつく。

 そうでなければ第四エリアに行くだろうからな……。


 俺の場合は、アイアンスライムだけはこの辺りで探さざるを得ない。

 アイアンスライムは確かに見つけにくい魔物ではあるが、鉱石を食べる性質があることで知られているため、山が近くにあるところに出現しやすいと言われる。

 第三エリアは、森の西側……ちょうど道の左側に山を背負った格好のエリアとなっているため、そちらに向かえば出現の可能性が上がるはずだ。

 ちなみに第四エリアは森がさらに深くなるが、山などは全くなくなるらしい。 

 巨大な湖を囲むように周囲全てが古代から連綿と続く森、といった様相になるようなので、そちらに進むのはアイアンスライムの後、にしたほうがいいだろう。


「そもそも見つけられるのかって問題があるが……行くしかないな」


 呟きながら、山の方へ向かって走る。

 これもスピード重視だ。

 とにかくさっさと見つけてさっさと倒して、さっさと第四エリアに向かわなければ。

 

 第三エリアの背負った山々は、迷宮にありがちの書き割りというわけではなく、実際に探索できる場所になっていることは確認済みだ。

 近づいても壁などに遮られることはない。

 ただ、上の方に登っていくと途中で透明な壁、になってしまうらしいが。

 迷宮の《果て》探しに命をかけるS級冒険者シーラの報告によれば、だが。

 普通はそこまで登ろうとはしない。

 大きく《道》から逸れてしまうからな……。

 ここの迷宮に来るような冒険者は、それこそあまり無駄な冒険をせずに、日銭を稼ごうとするランクの者が大半だ。

 無茶はやらない。

 まぁそれくらい寂れ気味な迷宮だからこそ、今回の試験会場になったのかもしれないな。

 ほら、封鎖しやすいからさ……。


 そんなことを考えているうち、俺は山に近づく。

 出来ることなら洞窟のようなところがあるとありがたいんだよな。 

 アイアンスライムに限らず、スライム系は水場と洞窟の中を好む。

 湿っている場所が好きなんだよな。

 アイアンスライムに限っては、水場の方は避けるらしいが。

 どうも水に使っていると錆が出るらしい、というのを聞いたことがある。

 だからこそ、第四エリアにはいないと言えるのだが。

 第四エリアは広大な湖が占めるエリアであるから、そこで活動しようとすれば水場での行動は避けられないのだ。

 アイアンスライムは間違いなく嫌う場所だろう。

 だから、第三エリアを探すのが正しい……。

 うーん、なんだか、冒険者になって、しっかりと高校で学んだ知識が役に立っているのは珍しいな。

 俺には特殊なことが起こりすぎて、今まで活用できてこなかったから……。

 しかし試験では大活躍で、やっぱりちゃんと冒険者として階段を上るために必要なことを学校は教えてきてくれていたんだな、と何か妙な感動を覚えた俺だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る