第506話 アイアンスライム

「……ついに発見、と」


 山肌に沿って、洞窟とか隙間とかそういうところをひたすらに探していると、不自然になめらかな形の岩、というか鉄塊?のようなものがあるのを見つけた。

 基本的に川じゃ無いんだから、こういうデカ目の岩が不規則になめらかな形してるのは珍しいんだよな。

 特に迷宮の中では。

 実のところ迷宮では、内部の岩とかなどは風化しないらしい。

 人間が踏み潰したり武器で叩いたりして壊れることはあるが、ある程度の壊れ方をすると魔物のようにリポップ……再度リセットされたように作り直されるようだから。

 つまり何十何百年とかけてするような風化の仕方をしていることは、まず無いわけだ。

 それなのに、そんな感じの見た目の物体がある、となればそれは何か特別なもの──たとえば魔物である可能性が高くなってくる。


 特に、こんな黒っぽくて固そうなやつとなるとな。

 この迷宮じゃ、アイアンスライムくらいじゃないか?

 まぁ俺がうろ覚えで他にもいるのを忘れているだけという可能性はありうるけれども。

 そして実際どうなのかは、とりあえず突っついてみれば分かる……。


「……うおっ! と……」


 それを剣の先で突っついてみた結果、うねうねと動き出し、そして体の一部をハリネズミのように尖らせてこちらを刺し殺そうとしてきた。

 間違いない、アイアンスライムだ。

 同系統の魔物であるノーマルスライムだと、その攻撃手段は酸を飛ばしてくる酸弾とか、その水っぽい体を生かして顔に覆い被さって窒息させようとしてくるとかが代表的だが、アイアンスライムはそういう攻撃はあまりしてこない。

 その砂鉄のような体を固く形成して刺してくることが基本だな。

 また、体がノーマルスライムなどと比べると非常に重いので、そう簡単に高く飛び上がることは出来ないが、上手く体を形成し、バネのようなものをつくって、それを推進力に変えて自分の体を大砲のように突っ込んでくることもある。

 これは非常に危険で、樹木くらいならば一撃で倒せるほどだという。

 つまり、油断できない。

 今の俺ならたとえそれを食らったところで死にはしないだろうが、それでもな。

 まぁだからと言って苦戦するというほどでもないのだが。

 流石に日頃B級冒険者を相手に模擬戦を続けているのだ。

 こんな俺でもそれなりに強くなってはいる。

 こちらに突っ込んできたアイアンスライムの突進を避け、そのまま剣を上から叩きつけた。

 このとき、中心からは少しばかりずらずのがポイントだな。

 なぜかと言えば、俺が欲しいのはこのアイアンスライムの核だからだ。

 スライム系の核は、そもそもスライムという魔物が不定型であるためどこに存在しているとは中々確定しがたい。

 しかし、アイアンスライムの場合、少なくとも中心近くにあることが多い、と言われる。

 それは核からの指令を全身に伝えるためには、そこに核を置くのがもっとも都合が良いからだ、とか言われるが、実際のところはどうだか分からない。

 それでも、核が中心近くにあるのは間違いないので、核が欲しいなら、核からずれたところを攻撃すべき……。

 仮説が正しいから分からないが、アイアンスライムは体を切断されると、切断された部分は鈍くしか動かなくなってしまうんだよな。

 さながら、体から切り離されたイカのげそみたいな感じに。

 統制を失い、戻れなくなっている、という印象を受ける。

 そうやって少しずつ削っていくと、最後には小さくなったアイアンスライムはどこにも行けなくなる。

 移動方法がその硬軟自在な体を、ウニのように尖らせて歩いて移動する、というやり方だからだ。

 まぁほとんど体の方がなくなっても、なめくじくらいの速度では動けるようだが……。


「……ここまでだな」


 むき出しになっている核を剣で慎重にほじくり出して、俺はそう言った。

 すると体は崩れ落ち、さらさらと砂のようになってしまう。

 これはこれで砂鉄として売れるので、取れるだけ取っておく。

 当然、大した金にはならないが、魔物の素材だから普通の砂鉄とは違う使い道がある。


「……これでアイテム一つ目、か。一匹目でゲットできて良かった……」


 俺はそう呟いて、次を探しに歩き出した。

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