第345話 レベル9

「キュイー!!」


 鶏ほどの小さな体躯をした小竜が、勇ましく声を上げながらかけていく。

 向かっている方向には、巨大な猪の姿があった。

 もちろん、ここは迷宮である。

 猪と言っても普通の猪のわけがない。

 魔物……フレイムボアと呼ばれる、火属性を帯びた強力な魔物だ。

 象ほどのある大きさがあり、質量も巨大であることは、一歩、歩くたびに聞こえてくる轟音や、地面にスタンプのようについた足跡のめり込み具合からも理解できた。

 あんなものにどうやって小さな竜が勝てるというのか。

 目の前に広がる光景からはそんな疑問を感じてしまうが、実際に魔物として格が高いのは、むしろ小竜の方だろう。

 それを証明するように、その小竜……みぞれの体には闇色のオーラが纏われ、走る速度を上げていく。

 そしてその速度が最高潮に至った時、そのまま、体当たりをするように霙はフレイムボアに突っ込んだ。

 

「……グラァァァ!!」


 フレイムボアの方も、黙ってその攻撃を受けたりなどしない。

 魔物は種族によるとはいえ、高位になればなるほど、知能が高くなっていく。

 それは戦いの場面において、立ち回りの賢さという面で現れるのだ。

 フレイムボアから見て、霙の突進はそれなりに脅威に感じたらしい。

 魔力を集約し、スキルらしきものを発動させる。

 体に炎が纏われるように燃え上がる。

 その熱は少し後ろから見ている俺たちにまで感じられるほどだ。

 ああいう属性を纏うようなものは、ただ炎を纏う、というだけではなく、相応に耐久などが上昇したりするものだ。

 もしくは、攻撃者に対して反撃として機能したりするなどの効果を持っていたりする。

 あれがどちらなのかは、攻撃してみないとわからないところで、フレイムボアにはどちらも確認されているからだ。

 しかし、霙はその足を止めることなく突っ込んでいく。

 何も考えなしに見えるからか、フレイムボアはその攻撃を避けることなく、受けることにしたらしい。

 地面に足を踏ん張り、小さな体躯の子竜の突貫を待ち構えた。

 そして……。


「キューッ!」


 気合いの入った霙のそんな鳴き声が聞こえると同時に、フレイムボアの体には穴が空いていた。

 霙によって、開けられたのだ。

 フレイムボアは少しの間、それに気づかずにいたが、少しして目から光を失い、横たわるように倒れていった。

 轟音が鳴り響く。


「……キュッ!」


 そしてこちらにかけてくる霙を俺は撫でる。


「良くやったな。あんなものまで一撃とは……」


「今のは爪術と牙術の複合に見えたわね。アーツだと思うけど……」


「ステータス確認しても見れないな。スキルまでしか。でも……レベルは上がったみたいだ」


名称:*****《霙》

種族:竜(無)《幼体》

レベル:9/100

種族固有スキル:《滅尽吐息》《下級属性吐息》

一般スキル:《下級無術》《下級氷術》《下級爪術》《下級牙術》《下級木術》


「とうとう9になりましたか。あと1ですね」


 静さんが頷いてそういう。

 しかし……。


「どうしたの、創。なんだか妙な表情だけど」


 雹菜が俺の顔を見て、首を傾げる。

 よく見ているな、と思うと同時に、俺は答える。


「いや、レベル9になったこと自体は喜ばしいんだけどさ……なんか妙な項目が一つ、増えてるんだ」


「項目?」


「あぁ、こんなものだ」


 ※レベル10に上がるためには、階層主を倒し、その魔石を摂取する必要があります…


「……それは。ということはこのまま魔物を倒し続けても10にはならないってことね……」


「まぁそうだろうな。でも階層主……行けると思うか?」


「うーん……まぁ、この迷宮の階層主は、閉じ込められるようなタイプじゃないからね。挑むだけ挑んでみてもいいかも。五層にもあったはずよ。あまり美味しくないから、挑む人は少ないらしいけど」

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