第208話 事情
「……お待たせして申し訳ありません。どうぞこちらへ……」
先ほどの美人受付が戻ってきて、俺を個室へと誘う。
俺は頷いてそれについていった。
そして個室に入ると、そこには大きめのテーブル、それに備え付けられた椅子に座る屈強な大男が待っていた。
「おぉ、お手数をおかけして申し訳ない。どうぞこちらへ。如月も入れ」
見た目に似合わない丁寧な言葉に俺は少し面食らう。
如月、と言うのは美人受付の名前だろう。
彼女も中に入り、そして扉を閉めた。
しっかりと鍵を閉めたので、ちょっと緊張する。
まぁ、別に唐突にぶん殴られたりはしないとはわかっているけれども。
あくまでも、外からの侵入を避けるためのものだ。
しかし……このおっさんは何者だ?
協会職員なのは推測出来るが……結構偉いんじゃないのか?
そんなことを俺が考えていることを察したのか、おっさんは俺に言う。
「いやはや、困惑されているでしょう。本当に申し訳ない……私は冒険者協会支部長、
「自己紹介が遅れまして申し訳ないです。協会職員の如月詩乃と申します」
「ええと……天沢創です。あの……俺、何かまずいことしましたか? 迷宮内でルール違反とか、したつもりはないんですけど……」
協会支部長、なんていうちょっとした大物の登場に俺は縮こまる。
全国的にはいくつかの迷宮ごととか、地域ごとに結構な数いるし、その上には県長とか地方長とかがいるからそこまで偉い、というわけでもないのだが、やっぱりなんとなくな。
総理大臣とまで会っておいて、今更な話かもしれないが。
何かまずいことをしたっぽい状況が余計に緊張させるのかもしれない。
そんな俺に、柊支部長は言う。
「いえ、そう言うわけではないんです。天沢さんの提出された素材などについて、少しばかりお話を伺いたいだけで……」
それで少しホッとしたが、俺は首を傾げて、
「素材ですか? ええと……なんの変哲もないゴブリン騎士のものばかりですけど……まぁ、ちょっと量は多かったかな……」
そう言ったが、これに如月さんが、
「いやいやいや、ちょっとどころじゃないですよ! 多すぎですから!」
と叫ぶ。
「そうですか? 五十匹ちょいくらいしか倒してないんですけどね……それくらいD級程度の方からは普通にできるでしょうし」
「天沢さんは……?」
「E級ですね。まぁでも大して変わりませんし……」
「変わりますからね……? 級が一つ上がると、大体十倍程度実力が離れると言われるくらいなんですから。それにそれだけじゃなくて、天沢さん、《ゴブリンの砦》を攻略されたでしょう!?」
「ん? 攻略……いえ、してないですけど……」
攻略、といえば相手の陣地を攻め取ること、をいうわけだが、迷宮について言えば、まぁ迷宮を攻略した、といえばそれは踏破のことである。
《ゴブリンの砦》のような、迷宮内にある魔物の小領地のようなところについては、定義がなく、まちまちではあるが、それでも攻め取った、と言えるほどのことはしてないと思う。
ほぼゼロになるまでゴブリン騎士を倒し続けたが、今頃はまた、あそこで新たなゴブリン騎士が湧出しているだろう。
しかし、そう思った俺に、柊支部長が少し呆れた表情で、
「天沢さんは……多分ですが、最近、ここに?」
「《騎士の巣窟》については今日からですが……?」
「それで合点がいきました。いえね、ここ一月くらいの話なのですが、《ゴブリンの砦》は低ランク冒険者の立ち入りについて注意喚起しておりまして、誰も行ってなかったんですよ」
「え? なぜですか?」
不思議に思って尋ねた。
あれだけ魔物が出現するのだ。
いい稼ぎどころだろうに。
確かに囲まれると辛いが、パーティーであれば問題ない程度だろう。
しかしそんな俺に柊支部長は言った。
「一月ほど前から、あそこに特殊個体のゴブリン上級騎士が出現して、周囲のゴブリン騎士を統括するようになってまして……危険度が上がっていたからです。それなのに……天沢さん、あなたは、ゴブリン上級騎士の魔石を持ってきたという」
……なるほど。
確かに言われてみると……ちょっと強い個体がいたし、妙に戦略的な動きを全体のゴブリン騎士がしていたかも、という気がした。
あれはそういうことだったのか……。
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