第209話 方針

「……確かに少し強いゴブリン騎士がいたなぁ、とは思いましたね。あれってゴブリン上級騎士ハイナイトだったんですか……」


 特に苦戦した感じでもなく、他に言いようがなかったからこその台詞だった。

 しかしこれに如月さんは目を見開く。


「少し強いって……ゴブリン上級騎士はゴブリン騎士の数倍強いと言われる魔物ですよ? 本来、《騎士の巣窟》のもう少し深い層で出現しますが、第五層よりも下です。それなのに……」


「五層ですか。へぇ……ならもうちょい早めに進んでも良いかもなぁ……」


 実力確認のためとは言え、流石に慎重に進み過ぎたのかもしれないと思っての言葉だった。

 まぁ、今日でその目的は達成できた訳だし、ここからはサクサク進める限り進んで行こうかな。

 目標はとりあえず十層だが、十五層くらいを目指してもいいかも。

 《騎士の巣窟》の最高到達深度は確か二十五層で、階層主が倒さずに足踏みしてた筈だが、流石にそこまでは厳しいだろうとは思うけど。

 B級冒険者のパーティーでそれなので、攻略には雹菜クラスが必要になる。

 十層くらいまで潜れるのはD級程度と言う話だから、挑戦する価値はある。

 そんなことを考えてぼんやりとしていた俺に如月さんは言う。


「無理はなさらないだください……たった一つしかない命なんですから……どうか慎重に……」


 ちょっと泣き出しそうな顔で、俺は慌てて、


「いやいや、無理をしようって訳じゃあないんですよ!」


 と言うが、


「でも、大した情報も集めずに《ゴブリンの砦》に突っ込んでしまうような行動は……」


「……それは確かに不用意でしたね……申し訳ない。参考までにお聞きしますけど、他にも《ゴブリンの砦》のように危険な場所が?」


 これには柊支部長の方が口を開く。

 少しばかり深刻そうな表情なのが気になったが、内容を聞けばそうなるだろうというものだった。


「……それなのですが、実はあまりよく分かっていない、というのが正直なところなのです」


「ええと……」


「迷宮には《ゴブリンの砦》のような、魔物の小領地が存在していることはご存知でしょうが、もちろん他の階層にもあります。ですが、ここのところそういった場所に近づく冒険者が減っておりまして……」


「どうなってるか分からないと?」


「はい。ただそれでもいくつかの場所で、《ゴブリンの砦》のように強力な個体が出現していることは確認されています。主に深い階層でのことですが……」


「あぁ、そういうところはトップ冒険者達が探索するから、ですか……?」


「その通りです。ですが、低階層、概ね十層以下に存在する小領地に関しては何の情報もないに等しく……ただ、最近、戻らない冒険者が増えています。主に十層以下を探索する冒険者の割合が多く、そこから考えますと……」


「小領地に行ったかもしれない人達が少なくないと」


「ええ、少なくとも我々はそう考えています。ですから、天沢さんも今後はそういった場所には近付かれない方がよろしいかと。もちろん、一階層の《ゴブリンの砦》を攻略して頂けたことはありがたく思っているのですが、だからこそ、有望な冒険者に命を無駄に散らせて欲しくないのです」


「なるほど……忠告というか、注意喚起のためにこうして呼んで頂けたんですね」


「はい」


 理由が分かり、この事自体は、俺もありがたく思った。

 だけど……。


「……でも、俺はちょっと頑張ろうと思ってるんです。無理はしませんけど、やれるところまではやりたい。小領地も探索はするつもりです」


「天沢さん……」


「ただ、他の冒険者の命を守るのに必要な情報を得られたら、とも思うので……とりあえず、明日も《ゴブリンの砦》に行ってみますよ。またゴブリン上級騎士が湧出するのか、それともただのイレギュラーだったのか、その辺りの確認が必要でしょう? そして仮に出現しても、俺なら倒せるのは既に実証済みですから」

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