第210話 報告

 言ったからにはやらねばならない。

 というほど背負うものがあるわけでもないのだが、実際、それなりに被害が出ている可能性が高いわけで。

 それを減らすために俺に何かが出来るなら、やってもいいだろうと思ったのだ。

 賀東さんに触発されたわけでもないが、冒険者は助け合いだからな……もちろん、そうじゃないのも一杯いるけれど。


「……うーん、やっぱり今日もいるっぽいな」


 《ゴブリンの砦》に辿り着くと、昨日倒したはずのゴブリン騎士たちは皆、新しく湧出し直して、陣形を組んでいた。

 昨日はそれほど観察もせず、たくさんいればこれくらいの陣形は組むだろう、だって騎士っていうほどだし、という感覚で見ていたので気にしてなかったが、改めて見るとこれはやはり異常なのだろう、と察せられた。

 というのも、ここに来るまでに五匹程度のゴブリン騎士のグループと戦っているが、彼らは別にこういったしっかりとした陣形を組んだりはしていなかったからだ。

 最低限の連携、というくらいのことはやってきたし、それなりに考えて戦っているな、という感じではあったが、その程度にすぎない。

 しかし、ここにいるゴブリン騎士たちは、明らかに集団戦を行おうという気概が感じられる。

 そして、最も奥に陣取っているゴブリン騎士を見れば、それは確かに他の個体と違って見えた。


「あれがゴブリン上級騎士ハイナイトだよなぁ……剣に錆がないし、防具もちょっと立派だな……」


 ただ、感じられる圧力は大したものではない。

 以前、ゴブリン暗黒騎士と戦っているから、その時の感覚でゴブリン騎士系を見てしまっているからかもしれない。

 あれの恐ろしい圧力と剣の冴えと比べれば……ゴブリン上級騎士などものの数ではないとどこかで思ってしまっている。

 まぁ、それも当然で、ゴブリン暗黒騎士はゴブリン上級騎士よりも何段か上の、ゴブリン聖騎士パラディンとおそらく同格の魔物だった。

 それと比べてはかわいそう、というものだろう。

 まぁ、かわいそうとか言っても、これから全部蹴散らすのだが。


「何度か全滅させて、湧出の間隔とか調べた方がいいよな。今日一日はここで頑張ってみるか……」


 そして、俺は《ゴブリンの砦》へと突入したのだった。


 ******


「……ええと、あっ、如月さん!」


 《ゴブリンの砦》での八時間キャンプを終えて、俺は《換金所》に戻ってきた。

 早速報告を、と思って受付で忙しそうにしている如月さんを発見し、声を掛ける。

 幸い、誰か他の冒険者の対応をしている、というわけではないようだった。


「……あ、天沢さん! 怪我は……ないみたいですね。良かった……あれ、でも今日は《ゴブリンの砦》を調査しに行くって……」


 一応、出発前に声をかけてから言ったので、如月さんもわかっていることだった。


「そうなんですよ。一日……と言っても八時間くらいですけど、《ゴブリンの砦》でキャンプし続けて、色々分かったので何かの参考にしてもらえたらと思って。報告って誰にすればいいかなって……」


「ええ!? もう何か分かったんですか!?」


「いや、あまり期待に添えはしないと思うんですけど、最湧出の間隔とか、ゴブリン上級騎士が最湧出するかとか、あとゴブリン上級騎士がいる時といない時の、通常のゴブリン騎士の行動の差とかそういうのを確認してきたので……。紙とかにはまだまとめてないんですけど、必要なら後でまとめますよ」


「……十分な情報じゃないですか。それでしたら、どうぞこちらへ。お話を聞いて、私が資料にまとめます。後で柊支部長にも提出するので、何か聞かれることもあるとは思いますが……」


「それはもちろん応じますよ。でも、明日からは第二階層に入って、魔物の小領地を探して同じことをしようと思っているので、また報告することになるかもしれないですけど……お手数おかけするかもしれません」


「それで冒険者の方々の死亡率が下がるなら、万々歳ですから……! ですけど、やっぱり、気をつけてくださいね……何が起こるか、わからないのが迷宮なんですから」


「分かってます。無茶はしないですよ」


 無茶というのは、それこそゴブリン暗黒騎士みたいなのを相手にするようなことを言う。

 そういう事態には、そうそうなり得ないと思っているからこその言葉だった。

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