第542話 虫

 しばらく探し回って、《虫の魔物》を五体ほど倒す。

 なんだかんだで一番固かったのは最初のダンゴムシ型の《虫の魔物》で、それ以外はカマキリ型とか、カマドウマ型とかだったからか、雹菜はくなの攻撃も比較的楽に通った。

 氷には弱いようで、効果も覿面であり、俺の補助がいらないくらいだったな。

 強敵だったみたいだ、ダンゴムシ。


「結構倒したけど……達成度が★五つにならないわね。まだ倒さないといけないのかしら?」


 《ステータスプレート》の《サブイベント》欄を見つめながら、顎に手を当てて首を傾げる雹菜。

 俺も自分の《ステータスプレート》を見てみるが、雹菜同様に★が五つになっていない。

 四つにはなっているのだが……やっぱりまだ倒し足りないのか?

 そんなことを考えつつ、俺は雹菜に言う。


「分からないけど、まだ歩いてない区画もあるからな。こうなったら虱潰ししかないだろうさ」


 俺のこの言葉に雹菜は嫌そうな顔で、


「もう虫探しとか勘弁してほしいのだけどね……」


 と言う。


「気持ちは分かるけど、このフロアにいる限りは難しい相談かもしれないな。さぁ、もうひと頑張りしよう」


「そうね……」


 俺たちはそのまま《虫の魔物》を探し続けた。

 そして……。


「……!?」


 急に首筋に寒気を感じ、俺は反射的に武器を抜いてそこを守る。

 すると、

 

 ──ガキィン!!


 と、固いものがぶつかった音と衝撃が襲いかかってきて、俺は少しよろめく。

 さらに雹菜が近づいてきて、細剣を振るった。

 すると何かが彼女の斬撃を避け、距離を取った。


「なんだ…… !?」


 俺が武器を構え直し、そう呟くと、雹菜は俺の前に立って構えたまま、


「どうやらこのイベント、《当たり》だったみたいよ……あれじゃない? 虫人というのは」


 そう言った。

 雹菜の視線の方向を改めて見てみれば、そこには二足歩行の存在が立っていた。

 しかし、人間とは違うというのは、その肌の質感でわかる。

 さらにまた、身長や尻尾が存在しないことから蜥蜴人でもないことがわかる。


 体を焦げ茶色の固い甲殻らしきもので覆われている、二足歩行の人型。

 それが、目の前の存在の姿だった。

 しかし顔の作りはしっかりと人間のようで、《虫の魔物》たちとは明確に違う存在であることも分かる。

 さらに背中には薄く透き通ったはねが開いていて、おそらくは飛べるのだろうと思われた。

 その上、頭には角が生えている。

 魔人系のそれとは異なり、甲殻と同じような素材であり、強いていうならカブトムシのそれに似ている。


「虫人……!! 意思疎通、出来そうか……?」


 俺が油断せずにそう言うと、雹菜は、


「分からないけど、とりあえず話しかけてみるところからよね……ちょっと、そこの虫人の人!」


 そう声をかけだした。

 虫人らしき存在はそこで襲いかかってこようとせず、耳を澄ましているように思えた。

 そして、それは口を開く。


「……お前らか?」


「え?」


「この辺りの《虫馬ちゅうば》を一掃したのは、お前らかと聞いている」

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