第191話 報酬

『……まずは、会場にお集まりの皆さん。ただいまご紹介に預かりました、白宮雹菜と申します。顔を知っている方も、知らない方もいらっしゃるでしょうが、少しばかり私にもお時間をください。これだけ賀東さんに言われて、言われっぱなし、というのも、若輩ですがギルドを率いる者として、看過し難いものですから』


 雹菜がマイクを手に立ち上がり、そんな言葉を発すると、会場の大きなモニターに彼女が映り、観客たちの視線は釘付けになった。

 単純に喋っている人間に注目が集まった、というのもあるだろうが、それ以上にモニターに映った雹菜の姿はそれだけ目を引く美貌と、同時に堂々としたカリスマ性のようなものが感じられたからだ。

 選ばれた人間だけが放つようなオーラ、そういうものがそこには宿っているように思われた。

 普段の彼女はむしろかなり親しみやすい性格だし、こんな風に他人を気圧するような存在感は放っていないのだが……その辺も自在ということだろうか。

 まぁ、少なくとも、この場面には似つかわしい空気感だろうなと思う。


「……本職の芸能人よりもオーラあるんじゃないか?」


 後ろで巧がミーハーじみたことを言う。

 ただ、間違ってはいないだろう。


「よくテレビに出てるんだから、雹菜もほぼ本職に近いんじゃないか?」


「それは確かになぁ……アイドルやれば間違いなく頂点に立てるぞ」


「そういうのって見た目だけじゃなくて色々必要そうだけど」


「見た目以外にも持ってるだろ、うちのリーダーはさ」


「まぁ、それは確かに。高校卒業したばかりの新社会人が持ってるような空気感じゃないなぁ……」


『……ところで賀東さん、私は今回のサプライズについて、たった今初めて知った訳ですが……出来ることなら事前に教えていただきたかったものです。まぁ、観客の皆さんからすると、こっちの方が面白かったかもしれないですけど』


 雹菜がそう言うと、モニターに賀東の顔が映るが、特に焦るような様子はなく、笑っていた。

 話はまだ、雹菜が続けているので、賀東は特に返さない。


『まぁ、冒険者は報酬さえもらえれば大抵の仕事を受けるものですからいいんですけどね。うちのギルドはまだ創設してから日が浅いですから、このような仕事を与えてくれて、むしろありがたいです。何せ、私もこれでB級ですから、指名依頼というのはそれなりに高額になりがちです。ましてや、人前で戦うようなお仕事は。期待してもいいんですよね、運営の皆さん?』


 これは軽い嫌味と、そして報酬の確保のための台詞だろうな。

 運営幹部らしき人々がいるところを見ると、そこが若干慌ただしい。

 顔も少し青い気がするのは、報酬が高値になるからだろうな。

 通常のB級ならともかく、雹菜は顔も名前も知られた人物で、半ば芸能人扱いの存在だ。

 それに対してこういう場で仕事をさせれば、しかも突発的なものともなれば、言い値で払わざるを得なくなるだろう。

 それでも限度もあるだろうし、雹菜もそこまでは吹っかけないだろうが、今の雹菜の空気感からそういうものを察することはできないからな……お気の毒に。

 雹菜は続ける。


『そうそう、報酬というなら、賀東さんからも何か頂かないと割に合いませんよ? 今回の提案者は賀東さんなんですから。その辺、いかがですか?』


 これに賀東はマイクを取り、


『……そうですね、では、来月行われる《北海道魔境調査》への参加枠ではいかがですか? 政府からの依頼ですが、我々が主体となって行う調査です。そこに参加するギルドを一つ加える、くらいのことでしたら可能ですよ』

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