第285話 取り逃す

 ……まぁ、そうは言っても倒すのだけどな。


「あれだけ協力してくれた相手を問答無用に駆除していくのは、どことなく虚しいものを感じるな。いや……魔物であるから他にやりようはないのだが」


 エリザがケイブゴブリンたちの遺体を前にそう呟いた。

 案の定、と言うべきか、俺が補助魔術をかけた状態のエリザはケイブゴブリンに対してはほぼ無敵だった。

 ミリアですら、魔術を使わずに剣のみでケイブゴブリンたちを屠れていたくらいだ。

 逆に俺は魔術の精密性の訓練になりそうだと、シューティングゲームよろしく、最低限の力で倒す練習をした。

 結果として、大ドーム内にいたほとんど全てのケイブゴブリンを倒し切った俺たちだった。

 ほとんど、なのはこの大ドームから逃げていったケイブゴブリンたちもいたからだ。

 俺たちが倒したのは、俺たちにあの後、率先して襲いかかってきたケイブゴブリンたちだけ、だな。

 それでも気分はそんなに良くないが……。


「仕方ないだろう。まさか地這竜の素材をやるってわけにもいかないしな。まぁ、肉くらいなら与えてもよかったが、その結果、人間を舐めるようになってしまったらまずいし」


「それもその通りなのだが……いや、でもたまに人間に友好的なゴブリンもいるからな。ただそう言う奴らは普通に集落を作り、交易をしていたりするが。コボルトもそうだし、いわゆる亜人系の魔物はそういうことが結構ある」


「……マジか」


 それは地球ではちょっと考えられない話だった。

 いや、一応ゴブリンやオークたちが砦や集落のようなものを作ることまでは魔境などで確認されてはいるものの、そういうところに人間が行った場合どうなるかといえば、普通に襲われるのだ。

 交易をしている魔物は確認されていない……はずだ。

 ただ、なぁ……梓さんたちのような妖人のことを考えると、そうも言い切れないのか。

 亜人を所掌する政府の機関があるようだし、あれは必ずしも異世界からやってきた種族のみを管理している、と言うわけではなさそうに思える。

 それこそ、ゴブリンやオークみたいな魔物系の亜人の集落なども管理しているのでは?

 今の地球でそういった存在を明らかにすると、そう簡単には受け入れられなさそうだからあえて隠している、と言うのがありそうな話だった。

 俺くらいの、生まれた時から迷宮や魔物が存在している世代になってくると、そういう存在がいてもすんなり受け入れられると思うのだが、それよりも前の世代は魔物に対する怒りというか、憎しみというか、そういうものがちょっとレベルが違うことが多いからな。

 何せ、三十年前にいきなり出現して、家族や友人、知り合いを殺された記憶を持つ者が少なくない世代なのだ。

 ある程度、冒険者たちの活動や組織が整備されて、魔境が出現したとしても迅速な避難ができるような体制が完成したのは本当に最近のことで、だからそれよりも前のある種の地獄を知っている人々からすれば、平穏に生きている魔物など認められたものじゃない、みたいなことになりそうに思える。

 まぁ、おかしな自然保護団体みたいなのが、魔物の保護を、とか権利を、とか言っていたりもするのでその辺りは多様であるというのが実際だろうが……難しいところだな。


「でも、さっきのケイブゴブリンたちはそういう感じではなかったですし、いいんじゃないですかね。逃げたケイブゴブリンたちは何か考えてる様子でしたが……まぁ鉱山からも去りそうですし、今のところは気にしなくてもいいとも思います」


 ミリアがそう言った。


「取り逃した奴らが人間を恨んで襲ったらちょっと後味悪そうだな」


「流石にそこまで私たちが気にすることはないと思いますよ。キリがないですし」


 意外にドライな意見である。


「そうか?」


「そうですよ。故意にやったとかならともかく、遭遇した魔物全てを常に一切取り逃しなく倒すとか、どんな冒険者でも無理ですからね。それより、素材を確保しましょう! 地這竜の素材ですから、いい値段で売れますよ! ハジメさんの収納袋なら、全部入りますよね?」


「あぁ……そうだな。多分行けると思う」


 そして俺たちはその場で魔物を解体し、収納袋に入れていく。

 また、先ほどの坑道で剥き出しになっていた古竜鉄らしき鉱石も参考に少しだけ掘り出すのも忘れなかった。

 後は戻ってガランドールに見てもらい、本格的な採掘をしてもらえばいいはずだ。

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