第284話 戦闘

 大ドームにまず、俺たちが入ると、急に出現した人間にケイブゴブリンたちの注目が集まる。

 トロッコから降りてきて、どこかに置いていた武具を手に取り、ノロノロとコチラに向かってくるがその速度は大したものではない。

 耐久性や腕力が高い代わりに、奴らは足がおそい。

 ただし、それだけに数に囲まれると、こと・・ではある。

 そのため地這竜を引き寄せる前にここにいるケイブゴブリンを全て倒しておく、という方法もないではなかった。

 だが、ケイブゴブリンは補助魔術を使った俺たちにとって、大した脅威にならない。

 そして、彼らには使い出がある。

 それと言うのは……。


「……来たぞ!」


 エリザがそう叫んだ。

 大坑道から出てしばらく、ケイブゴブリンたちからも距離をとって走っていると、ついに地這竜がそこから姿を表す。

 大きめの坑道とはいえ、やはり狭い空間で見たそれとは異なる異様がはっきりと、この広い大ドームでは目にすることができた。

 竜の名を冠してはいるものの、その正体は亜竜とか言われる低級竜種に過ぎず、トカゲ扱いされることもある存在であるからか、その背には本物の竜が持つような翼を持たない。

 加えて、口から炎を吐くようなこともなく、人間が彼らを恐れる理由の最たるものは、その巨体と、それを利用して繰り出させる単純な質量攻撃だった。

 また、食事を邪魔された場合の怒りようは半端ではないようで、周囲のものにひたすら当たり散らす高い攻撃性も持っている。

 ただし、彼らはあまり知能は高くなく、それに加えて、こういった鉱山などの地層に住まうためか、視力も大して良くはないのだ。

 つまり……。


「グギャギャ!?」


「ギャァ!!」


 地這竜は俺たちではなく、数の多いケイブゴブリンたちを狙って攻撃しだした。

 地這竜の巨体は、小さな小屋ほどもあり、彼らにとって俺たちとケイブゴブリンの差など分からないのだ。

 とにかく、自分達の神聖なる食事を邪魔した何者かをその可能性がありそうなもの全て殺し尽くす。

 そんな意思が感じられる爛々とした目で周囲を見渡し、攻撃し続けている。

 魔物だからといって、仲間意識を抱くようなことは実のところそれほど多くなく、ゴブリンと亜竜ほども種族が離れてしまえば、彼らにとってお互いは完全な別種族なのだ。

 つまり普通に殺し合いが行われる。

 俺たちが大坑道から出てきた直後は俺たちを狙って攻撃しようとしていたケイブゴブリンたちも、目下の危険は俺たちではなく地這流にあると優先順位を考えたらしく、数十匹からなる彼らは全員で地這竜へと立ち向かった。

 

「……目眩しくらいになってくれとは考えてたが、思ったより働いてくれそうだな」


 俺がそう呟くと、


「あえてケイブゴブリンを狙わない方が良さそうですね……《大岩槍》!!」


 ミリアがそう言いながら魔術を構築し、ケイブゴブリンに蟻のように集られている地這竜に、その隙間を狙って魔術を放つ。

 俺の補助魔術がかかっているからか、精度は高く、ケイブゴブリンに命中することなく、地這竜に突き刺さっていく。

 また、俺も彼女を真似して《陣》を描き、慎重に制御が失敗しないよう、地這竜を狙った。


「……こうなってくると私は暇だな。少しくらいはケイブゴブリンがコチラに襲いかかって来るものかと思ってたが……」


「まぁ、後で戦闘になるかもしれないし、その時に活躍してくれればいいさ……にしてもかなり仲間意識強いんだな、ケイブゴブリンって」


 言いながら、俺は魔術を放ち続ける。

 地這竜の動きは二匹とも鈍くなっていく。

 やはりあれだけの巨体でも、数には勝てないと言うことかな。

 人間もああいう張り付き方をして攻撃し続ければ数十人いれば勝てるということだが……いや、無理か。

 あれはケイブゴブリンの耐久力あっての行動だ。

 人間が同じことをやったらすぐに紙のように切り裂かれて終わる。

 腕力的にも、普通の人間にはまず無理だし、冒険者があそこまで無謀な突撃をすることもないから、取れる戦法ではない。


「一緒にトロッコに乗って遊んでるような奴らなのだから、仲間意識も強いのだろう……ふむ、もうそろそろ終わりそうだな」


 エリザの言うとおり、地這竜の動きは徐々に鈍くなっていき、俺たちがトドメにと放った《岩槍》が胸部に突き刺さると、それで完全に沈黙したのだった。

 なぜか、ケイブゴブリンたちが嬉しそうに拳を突き上げて喜んでいた。

 ……この後、倒しにくくなるだろ。

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