第283話 作戦

「……あれが地這竜、か。聞いてた通り、かなりデカいな……」


 大きめの坑道をしばらく進むとやがて見えてきたのは、もそもそと動いている巨大な岩……のように見える魔物だった。

 地這竜だ。

 しかも……。


「二匹いるではないか……いや、もっと沢山いなくて良かったと安心すべきなのかもしれんな。ガランドールの話では、地這竜は竜気を求めて集まってくるという話だった」


 エリザがそう呟く。


「二人とも、いけそう? あれと正面切って戦うのは、私には無理だけど……二人は前衛だからどうしても前に出て戦ってもらう必要があるけど……」


 ミリアがそう尋ねてきた。

 確かにそれはそうで、その場合、この狭い坑道の中で暴れ回るであろう地這竜を相手にしなければならないことになる。

 それは少しばかり怖かった。

 坑道崩落の危険性があるからな……。


「いけなくはないだろうけど、避けた方がいいかもしれないな……いや、でも倒さないとならないからそう言うわけにもいかないか。一撃で片付ける方策を考える……か?」


 俺がそう呟くと、エリザが首を横に振って言う。


「いや、流石にそれは難しいのではないか。私がハジメから補助をもらっても、一撃で行けるかどうかは微妙なところだ。それに、二匹いるからな……片方に少しでも手間取るとそれでピンチになる……うむ、それよりも、こんなのはどうだ。あの地這竜どもを、先ほどの大ドームのところまで引き摺り出すのだ」


 確かにそれは名案に聞こえた。

 あれだけ広い場所であれば、多少地這竜が暴れ回ったところで問題はないだろう。

 あそこなら全体に魔術的な補強がなされてる感じもあったからな。

 それでも限度はあるだろうが、ここで戦うよりはずっといいはずだ。


「だけど、どうやって? ガランドールの話によれば、あいつらは竜気に夢中で、ちょっとやそっとのことじゃ気にも留めないって……。流石に切りつければ違うだろうが、それはちょっと怖いしな」


 そのまま戦闘突入では意味がない。

 急いで大ドームまで逃げればいいのかもしれないが、近づきすぎればそれも難しい。

 これにミリアが、


「私が魔術を叩き込めばいいのではないでしょうか。ハジメさんからの補助を受けて、時間をかけて構築すればかなりの大魔術を使えると思うんです。流石に地這竜でも無視はできないクラスのものを」


「なるほど、いい案だ……じゃあそれで行くか? 他に何も浮かばないし。ただ、それでも逃げる準備は先に整えた方がいいな」


 言いながら、俺はミリアとエリザに補助魔術をかけていく。

 身体強化と魔力強化だ。

 さらにミリアからも身体強化をもらう。

 自己補助はまだ、安定してないからこういう場面で使うつもりはない。

 いずれは使いこなしたいが、まだまだだな。


「では、魔術を構築しますね……」


 ミリアがそう言って、魔力を練り、《陣》を描き始めた。

 俺とエリザは、魔力を練るミリアに地這竜が気づいて襲いかかってくる可能性を考え、彼女の前で武器を構える。

 けれど、幸いと言うべきか、地這竜はもそもそと古竜鉄があるのだろう地層を食べ続けているのみで、振り返る様子もなかった。

 竜気に執着する、は本当の話のようだな……。

 そして、


「行きます! 二人とも、逃げる準備を!」


 ミリアがそう言うと同時に、《陣》が完成する。

 彼女が放った魔術は、驚くべきことに火炎系の魔術、《大炎禍カラミティブレイズ》と呼ばれる大魔術だった。

 巨大な炎が地這竜を飲み込み、焼き尽くさんと燃え盛る。


「無茶するな……お、気づいたようだ。逃げるぞ!」


「はい!」


「流石にこれほどの攻撃を受ければ無視はしないか。キレてるなあれは」



 そして、俺たちは大ドームに向かって走り出す。

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