第282話 大広間

 岩狼の素材はそれなりに使えるそうなので、死体ごと収納袋に突っ込んで、俺たちは足速に奥へと向かう。

 なぜこの場で解体しないのかといえば、そんなことをしている時間がないのがまず一つ、さらにここは坑道であるからこんなところで魔物の解体などしていたら匂いでとんでもないことになるからだ。

 一般的にはどうするのかというと、魔石だけ取り出して放置というパターンが多いようだが、それでも腐敗し始めたら酷いことになるように思えるが……。

 まぁそもそも、開かれた鉱山の坑道に魔物が頻繁に出現するような状況こそ稀だ。

 通常なら、鉱山として稼働する前に全て間引いてしまい、魔物が決して入り込まないように守りを固めるのでそんなことにはならない。

 こうやって一度放棄してしまうと、鉱山の再稼働には相当なコストがかかってしまうのもあり、割と必死で守るらしいが、流石に地這竜ともなるとどうにもならなかったのだろうな。

 三つ星の冒険者がいればなんとかなるという話だったが、それも確保しにくいようだし。

 ……倒せるかどうか不安になってきたな。

 危なかったらさっさと逃げることにしよう。


 そんな風に改めて思っていると、


「……ハジメ、だいぶ開けた場所に出たぞ」


 エリザがそう言った。

 確かに彼女の言った通りで、今まで歩いてきたところが廊下のような狭さだとすれば、いきなり体育館に出たみたいな感じの広さに変わった。

 ドーム状に繰り抜かれた大きな空間で、ただ壁際を観察してみるといくつもの他の坑道へ続くと思われる穴が空いているのが見える。

 ここはさしずめ、ハブと言ったところだろうか。

 こういうところがあった方が、効率的なのかもしれないな。

 それに、いくつかの魔導具が放置されているのも見える。

 ここである程度、鉱石などの選別作業などが行われていたのかもしれない。

 トロッコなどもあるようだが……。


「……今じゃ魔物の遊び道具、か……」


「あっ、本当ですね。あれは……ケイブゴブリンかな? 肌が茶色いし……楽しそうにトロッコ乗ってる……」


 ミリアが俺の言葉にそう返す。

 

「これだけ見てると無害な生き物に見えなくもないが、実際には近づけば襲いかかってくるからな。気をつけねばならないぞ。ケイブゴブリンはフォレストゴブリンと違って頑丈だしな」


 エリザが注意深くそう言った。

 実際、洞窟などに住まうケイブゴブリン系は、森などを棲家にするフォレストゴブリン系と比べて、少しずっしりとしていて身長も低い。

 その代わりに、腕力や耐久力などに長けており、戦ってみると思ったよりも強く感じると言われる。

 まぁそれでも、低級のケイブゴブリンであれば、手応えは慣れればフォレストゴブリンと差して変わらないのだが。


「俺たちの目的は地這竜のいるところだから、あれはさっさと片付けておくか」


「しかし数が結構いるからな……地這竜はどこに……」


「あっちじゃないかな? 強い魔力圧があるもの。あの穴だけ、随分巨大だし」


 奥の方に見える大きな坑道を指差し、ミリアがそう言った。

 確かに、そちらから感じる気配は、広間にいるケイブゴブリンの比ではない。

 

「これが地這竜の魔力か……決して小さくはないが……」


 以前遭遇したゴブリン暗黒騎士と比べるとそこまでではないような気がした。

 比べる相手が間違っているのかもしれないが、若干の安心がある。


「おいおい、私でも感じられるほど大きい魔力なんだが……」


「いや、別になめてるわけじゃないんだ。ただ、もっと恐ろしい魔力を真正面から感じたことがあるってだけで」


「これよりもか? ハジメはだいぶ厳しい冒険をしてきたのだな……」


「残念ながらね……ともかく、あそこならうまく迂回していけばケイブゴブリンを無視していけるな。雑魚を延々と相手するのも面倒だし、そうしよう」


「賛成です!」


「あぁ」


 そして俺たちは広間をコソコソと隠れながら進んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る