第281話 戦闘

 俺にかかっている補助魔術はミリアのもの。

 そしてエリザとミリアには俺がかけている。

 とは言っても、以前のように出鱈目な倍率でかけているわけではなく、岩狼に対しては十分な優位を取れる、と考えるところまでに抑えている。

 なぜその程度で済ませるか、と言えば、まずこの坑道が人工物に過ぎないことが挙げられる。

 もしもここが迷宮だったら、結構な強化をかけたとして、それで壁などを誤って攻撃してしまっても問題はないだろう。

 しかし、ここで同じことをやったらどうなるか。

 下手をすれば坑道が崩れ落ちてしまうかもしれない。

 そんな危険を冒すわけには行かなかった。

 加えて、エリザもミリアも、強すぎる力にはまだ、慣れていないというのもある。

 元々の自分の力であれば、どれほど大きなものだったとしてもある程度のコントロールを利かせられるものだろうが、俺の補助魔術は本人の性能を何倍にも上げてしまう。

 数割増し、程度であればすぐに慣れるかもしれないが、いきなり自分の力が何倍にもなったら……。

 すぐに慣れるというのは難しいだろう。

 ある程度の訓練が必要だ。

 けれど俺たちにそんな時間はない。

 厳密にいうと、俺たちというより、俺に、だけど。

 一月二月も時間があるのなら、練習すればよかったのだが、もう一週間程度で俺は地球に帰らなければならないからな。

 無理だった。


 そんなわけで、そこそこの強化で済ませている。

 そのため、本当にこれで行けるのか不安なところもあったが……。


「はははっ! これはいいな! 動きが全て見える! 体が思い通りに動く!」


 エリザがそんな風に叫びながら、岩狼たちに攻撃を加えていく。

 残念ながらというべきか、岩魔導人形をやった時のように、一刀両断というわけにはいかず、少しずつダメージを与えているに過ぎないが、それでも今までの彼女からするとかなりの実力の上昇を感じているだろう。

 岩狼は、その体を鎧のように岩が覆っている魔物で、攻撃を通すにはその岩を切り裂けるだけの攻撃を加えるか、もしくは岩の隙間を狙って突き込むかしかないと言われる。

 エリザはそのどちらもそう簡単には出来なかったらしいが、それでも岩を切り裂くのは無理だったために、運任せの隙間狙いで挑むのが基本だったようだ。

 そういう戦い方であっても、何度も突きをしていればそのうちうまく入って倒せるらしいが、しかしそれでは一日に倒せる数は限られるし、体力の消耗も大きい。

 だから岩狼はそうそう相手に出来る魔物ではなかったという話だが、今の彼女からはそういう不安は感じられない。

 彼女の剣の一撃で、岩狼の岩の鎧は剥がされ、切り裂かれ、少しずつダメージが入っていく。

 岩狼の方も劣勢を感じているように、苦しげに反撃に挑むけれども、それらは全てエリザに見切られて避けられてしまっている。

 あの調子なら、すぐに決着がつくだろう。

 俺の方も、エリザのアドバイスに従い、突き主体で戦っているが、補助魔術のお陰で岩自体も切り裂けるようで、通常の斬撃も織り交ぜながら戦っている。

 俺は三体の岩狼を、エリザは二体の岩狼を相手にそんな立ち回りをしているが、危なげはなく、このまま続けていっても間違いなく倒せる……。

 

 そんなことを考えるも、俺とエリザは背後から魔術の気配を感じる。


「いけます!」


 ミリアの《陣》構成が完成したらしく、俺とエリザはその声に反応しすぐに間を開けた。

 岩狼たちも異変に気づいたようだが、時、既に遅し、というやつだ。

 ミリアの《陣》から風の刃が複数本射出され、岩狼たちを襲う。

 その斬撃力は俺たちの剣のそれを上回るようで、岩狼たちの体を切り裂いていく。

 そのまま壁にまで被害が及びそうにも思えるが、そこは流石に魔術に慣れているミリアの制御力だった。

 壁に命中する前に、風の刃を消し去り、その場に残されたのは物言わぬ岩狼たちだけだった。

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