第280話 坑道の様子

「……思ったより坑道の中はしっかりしてるな。明かりも取られてるし……これは魔導具か……」


 坑道の中を慎重に観察しつつ進む俺たち。

 本来、誰も中にいない坑道など真っ暗であって然るべきなのだが、ここヴェストラ山の坑道はそうではなかった。

 等間隔に壁際に灯りがあり、それがいまだに稼働しているのだ。

 当然、松明などではなく、魔導具であることは明らかである。


「ここに地這竜が出現してから、それほど長くはないようだから……まだ魔石の魔力が尽きていないのだろうな」


 エリザがそう言う。

 魔導具は魔石によって稼働するのが基本だが、ほぼそれは電池と同じわけで、エネルギーが尽きない限りは動き続ける。

 スイッチとかがあったらまた別だが、坑道の中の魔導具は常についているタイプなのだろう。

 まぁ、いちいち消して回ってる暇もなく地這竜が出現してしまっただけかもしれないが。

 俺たちにとってはありがたい話だけどな。


「これくらい魔力が濃い場所だと、一旦魔石の魔力が尽きても、しばらくしたら少し魔力を溜め込むこともありますからね……流石に魔石の限界が来たらそうはならないでしょうけど」


 ミリアが補足するようにそう言った。

 魔石は魔力を溜め込む性質があるわけだが、何度も魔力を注いだり、また魔石の限界を超えた魔力を注いだりすると、崩壊するのだ。

 そのことを言っているのだろう。

 崩壊した魔石は粉になって、魔石灰などと呼ばれる素材になり、これもまた魔導具などに使用される。

 魔石はあらゆる意味で資源なのだな。

 そのため地球においては崩壊間近の魔石などを回収して回る業者は結構あった。

 その辺に捨てるやつもたまにいるので、ホームレスの方々がスチール缶のように集めることもある。


「俺たちが探索している間は、魔力が尽きないで欲しいもんだが……」


「尽きたら尽きたで、私が明かりになりますよ」


 ミリアがそう答えるが、これは別に彼女自身が光るというわけではないのは言うまでもない。

 魔術によって明かりをつけるという話だな。

 光か、火か……まぁ、光の方がいいんだろうが、火の方が簡単らしいからな。

 火の魔術は魔力を主な燃料として使っているので、酸素はそれほど消費しないらしいが、ゼロではないし、手元から離れると普通の火と性質は同じになる。

 このあたりは地球の科学技術で観測されていることで、そのため坑道などの狭い場所ではあまり火の魔術の使用は薦められていない。


「そうしてくれるとありがたい……っと、敵さんのお出ましみたいだ。あれは……」


 俺は坑道の奥からやってくる気配を見つめる。

 当たり前だが、ここにいるのは地這竜だけではない。

 放棄された坑道というのは魔物にとってはいい住処になるのだ。

 そのため、さまざまな種類の魔物が入り込んでいることは少なくない。

 地球でも昔の坑道みたいなところに魔物が入り込んでいたから駆除を、みたいなことは割とありがちだ。

 そんな事情はこちらでも全く変わらないようだった。


「……あれは、岩狼ロックウルフだな。山から入り込んだか……大きさはさほどでもない。数は……四匹か」


 エリザがそう言った。

 岩狼は割と山奥の方に生息することの多い魔物で、そのため人間とかち合うことは少ない。

 ただ、大きな群れから逸れたり、勢力争いに負けた個体が人里近くまでやってくることはままある。

 数が増えると、こうして小さなグループを作ったりな。

 元々、群れを作る魔物であるため、連携もうまいことで知られる。

 まぁこれは狼系統の魔物全般に共通する性質だが。


「結構硬かったはずだから、油断するなよ、みんな。行くぞ」


 俺がそう言うとエリザとミリアは頷き、構える。

 補助魔術をそれぞれかけ……俺たちは地面を踏み切った。

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