第279話 ヴェストラ山
「……ガランドール殿の作った魔武具を私たちが、か。これは気合いが入るな……」
エリザがしみじみと言った様子でそう言った。
俺たちの目の前には今、ヴェストラ山の姿が見えている。
と言っても全景ではなく、その一部、鉱山として切り開かれている場所だ。
いくつもの坑道がアリの巣のようにくり抜かれている岩山があり、若干、崩落の危険性とかを考えると怖い気もした。
地球ならしっかりとした構造計算とかしてくり抜く坑道の崩落の危険を避けているのだろうが、この世界だとその辺りがな……。
まぁ、建築関係のことは、一応調べてはいて、こっちの世界はこっちの世界なりに発展してはいるのだが。
たとえば、向こうにはない魔術を使った補強や強化の魔術を使っての建築とかな。
厳密にいうと、地球でもスキルが生まれた三十年前から、スキルを使った建築などの研究もなされてはいるのだが、こちらの世界は三十年なんてレベルではない。
何千年だ。
《陣》もあるし、あれは魔導具などに刻み込んだりして使うとかそういうことが出来るわけで、建築にも応用が利くのだろうというのはすぐに想像がつく。
実際、こっちの世界の建物は、意外なほどに頑丈なものが少なくない。
ただ、そういった技術が、坑道にどれほど活用されているかは微妙だ。
鉱山労働は、犯罪奴隷の労働にも使われる過酷なものであることも少なくないらしく、そうだということはそれなりに危険なのは間違いないからだ。
カナリア的な活用というか、危険察知装置であって、坑道の堅牢性自体は関係ないとかかもしれないが……まぁあまり恐れすぎても仕方がない。
今の俺たちなら最悪、埋まっても外に出るくらいならなんとか出来そうではある。
何せ、補助魔術を使えば石を容易に破壊できることは確認済みだ。
完全な生き埋めにならない限りは、脱出も可能なはず……生き埋めについても、防御系の魔術を即座に発動できるように注意して進みたいところだ。
そんなことを考えながら、俺はエリザに応じる。
「やっぱり、特級鍛治師の武具っていうのはなかなか得られないものか」
「あぁ、オーダーメード品は特にな。店に並んでいたような既製品は必ずしもそうとは言えんが……まぁでもそちらも貴重だ。相当な金がないと買えないのは値札を見れば分かっただろう?」
「確かに、金貨の山が必要になるらしいものが結構多かったな。安値のものもそれなりにあったけど」
これにはミリアが言う。
「安いものは数打ちとか、お弟子さんの作品とかでしょうね。特級鍛治師ともなれば、弟子を受け入れる義務もあるようですし……ガランドールさんは面倒くさがりそうですけど」
「そうか? 割と面倒見は良さそうな感じがするが……いや、懐に入れるまでは面倒がりそうか。その後は大切にしそうだな」
「そうそう、そんな感じです」
そんなことを話しながら、俺たちは坑道の中でも最も大きなものへと足を進める。
ガランドールから大雑把な地図を貰っていて、これに基づくと最深部まで続くのはこれだけのようだ。
というか、他の坑道だと途中ですごく道が狭くなったり、試掘に使われたもので中途半端なところまでしか掘られてないとか、色々と問題があるのだ。
わざわざ危険な道を選ぶ意味はない。
それにこの大きな坑道だとて、内部ではそれなりに入り組んでいる。
しっかりと道を覚えておくというか、目印をつけておかないと迷いそうだな……。
まぁ、魔力を飛ばせば道はともかく、どちらの方角が外なのか、くらいは普通に分かるからそうそう迷わないとは思うのだが。
「さぁ、中へ進もう。危なくなったら即、逃走。これをモットーにな」
俺の言葉に二人は、
「少しばかり情けないような気もするが、相手が相手だ。そうしよう」
「私も全面的に賛成です」
そう言って頷いたのだった。
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