第278話 報酬

「……お、お前ら、ヴェストラ山の様子を見てくるつもりってのは前に話たが……地這竜を倒すつもりって……まだ駆け出しだろ!? 流石にそれはやめておけって!」


 領都に戻り、ガランドールにとりあえず話を聞きに彼の店に来て、事情を説明するとそう言われた。


「確かにそうなんだが……やってやれないことはなさそうだ、という結論になった。無理なら逃げ帰って来ればいい。別にそれで怒ったりはしないだろう?」


 エリザがガランドールにそう言う。


「いや、そりゃあ……いつか古竜鉄が手に入らねぇかとここに居を置いて何年にもなるんだ。今さら待つことになったところで何も思わねぇけどよ……それこそ俺はお前らの方が心配だぜ。今は無理だ。だが、もう十年も経てば、お前らだって一端の冒険者になって、それが無理じゃなくなるかも知れねぇ。そん時まで待ったって、俺は全然構わねぇんだからよ」


 対して、ガランドールのセリフは思ったよりも優しいものだった。

 鍛治師として、素材に対しては並々ならぬ執着があるのは、特級鍛治師なんていう大層な肩書きを持っているのに領都などに店を構えていることからも察することができる。

 それだけに、若者の命くらいそのためには何も気にしないという性格をしていてもなんら不思議なことはないと思っていた。

 けれど実際には俺たちのことを心配してくれるのだ。

 そんな気持ちを俺が顔に表していたのか、ガランドールは少し苦笑して言う。


「なんだよ、意外か? ドワーフの鍛治狂いが、人間の命の心配なんざするのかって」


「いや、そこまでは言わないけど……可能性があるなら行ってこい、くらいは言うかなって思ってたんだ」


「それくらいの気持ちは確かにあるがよ……ハジメ、お前なんて特にこないだ登録したばかりだろうが。流石にそんな奴に地這竜を倒して来いなんて言えないぜ。様子を見てこいってのとはレベルが違うんだ。地這竜は竜気に執着するからよ。多少、人間が遠くから観察してる程度じゃ気にも留目ないが、一度攻撃してくれば執拗に反撃してくるんだぞ。食事の邪魔をされるのが、あいつらは何より嫌いなんだ……」


「食事? 竜気に群がるって話は聞いたが、それはどういう……」


「あいつらは古竜鉄とかに宿ってる竜気を食べるのさ。それだけってわけじゃねぇが、それが殊更に大好物なんだよ。だから、まぁ……放っておけば、全て食い尽くされるだろうな。古竜鉄がそこにあったとしても。だからなかなか古竜鉄が見つからないって事情もある」


「……なるほどな。だったら余計に早めに見に行って、出来れば倒した方がいいじゃないか。そうしないとここにガランドールがいる意味もなくなっちゃうだろ」


「そりゃ、そうなんだが……その時はまた、どこか別の場所に探しにいけばいい。お前らの命を無駄にするよりゃ、よっぽどマシな話だ」


「そうか……ま、でもやっぱり、挑戦はしてみるよ。本当にただの無茶じゃないんだ。ここのところ、修行……みたいなことしててさ。今ならたとえ地這竜が相手であっても、勝算がある。なぁ、二人とも」


 ミリアとエリザにそう尋ねれば、二人とも頷いて言った。


「火力は全く問題ないはずです。当てられるかどうかだけですが……地這竜は体力はあっても、素早さはそれほどではなかったかと」


「出来ればすぐに首を落とせればいいが……無理でも足くらいは潰せるだろう。無理ならそれこそ逃げるしかず、というやつだが、まぁ、なんとかな」


 完全に倒せるまでの自信が、とは言わないまでも、少なくともやりあえるという自信が二人からは感じられた。

 

「……無謀なのか? いや……そういう感じでもないか」


 ガランドールはそして、うーむ、と悩んでから、最後には頷いて、


「……分かったよ。やってみてくれ。もしも古竜鉄を採取できたら、お前ら全員に魔武具一式ただで作ってやるよ。古竜鉄製の奴をな。とはいえ、量次第ではあるが……」


 そう言ったのだった。

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