第277話 残り日数

「……うん、良いと思います。おおむね、私と威力が同じくらいにまで抑えられるようになっていますし。補助魔術も出力をかなり自由に調整できるようになりましたね……正直私の方がそこまでもう細かくできないレベルです……」


 若干悔しそうな表情で、ミリアがそう言った。

 あれから、俺たちは石魔導人形をひたすらに探して迷宮を彷徨い、見つけるたびに俺の魔術の的にするか、エリザに補助魔術をかけて倒してもらうかを繰り返していた。

 たまに現れる木人形の場合には、どうせならとミリアに補助魔術をかけて倒させたりもした。

 彼女は基本的に補助魔術師であるが、それでも全く剣を扱えないというわけではない。

 自らに補助魔術をかけることも出来るらしく、精度は他人にかける場合と同じらしい。

 俺の場合は、自分にかけるとなると《陣》の形を直接見るのが難しくて精度が落ちるが、ミリアは自分にかける時も他人にかける時も《陣》の形など見えないから同じなのだ。

 そのため、自分でもある程度、戦える方が良いからと訓練を申し出てきたのだ。

 実際、ミリアは結構動けていて、ミリア自身でなく俺が補助魔術をかけた場合には木魔導人形相手でも戦えるほどだった。

 地球の一般人男性とかならまず叶う実力ではないな。

 魔術がどれだけの効力を持つのか、これだけでもわかるというものだ。

 そもそも、ミリアは攻撃魔術も基本は使えるので、それだけで普通に人間は逆立ちしたって相手にならないけどな。

 何せ、火球を普通に放ってくるのだから。

 相手からすればグレネードランチャーを持った相手と素手で戦えと言われてるようなものだ。

 絶対に勝てない。

 ものすごく素早ければ詠唱が終わる前に飛びかかるとか、そういうこともできるのかもしれないが…… 基本的には不可能と言って良いだろう。

 

「調整を覚えたから魔力の効率も良くなった気がするな……良かったよ。向こうに帰るのに、良い土産になった」


 これだけ色々と魔術の技法を覚えたのだ。

 向こうに帰ればそれなりに戦えるはずだ。

 雹菜にどこまで追随できるかは分からないが……。

 流石にまだA級とは戦えないか?

 威力やステータス的には近いところに来ていると思うのだが、経験とかを考えると微妙だな。

 彼らは場数が違うから……。

 だけど、昔の頃を考えればもはや全く違う立ち位置まで来ているのは間違いない。

 そのうちA級とも肩を並べて戦えるところまで行けたら良いんだが……補助魔術師、という立場であれば無理ではないかもしれないが。


「確か、後、一週間ほどで戻るのだったか」


 エリザがそう尋ねてくる。


「あぁ。《ステータスカード》に記載があって、戻れる時間が書いてある。迷宮の場所もな」


「しかし不思議な道具だ……私たちも使えれば良いのだが」


「唱えてみたけどダメだったんだよな。これは地球人特有なのか、それとも……」


 この世界ではまだ、使えないだけなのか。

 その辺りはあの女神らしき女に聞いてみたいところだが、あの教会に行ったところで会ってくれる気はしなかった。

 まぁ今はいいか。


「残りの時間は、ヴェストラ山で地這竜退治ですよね。どれくらい数がいるのか……」


 ミリアがそう言った。

 残り一週間で、俺たちはヴェストラ山に行って古竜鉄を得てくるつもりだった。

 地球に戻るための迷宮攻略には二日ほどかける予定なので、四日でどうにかしないとならない。

 無理な無理で、また来た時にでも、と考えているのでそこまで焦ってはいない。

 ガランドールも割と気長な感じだったなしな。

 

「いくらいても百体ということはあるまい。多くて数体だろうが……少ないといいな。古竜鉄を得られたら、いい収入にもなりそうだし」


「あぁ。ガランドールには優先的に提供というか、その代わりに武具を打ってもらうつもりだけど」


「それはもちろんだ。私も頼めば打ってくれるかな……いやまだ実力不足か……」


 そんなことを話しながら、迷宮から出ていく。

 明日には領都に帰り、その後はヴェストラ山だな。

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