第160話 招き入れた理由

「……おい、雹菜はくな……」


 どうする?

 と視線を向けて俺が尋ねると、彼女は肩を竦めて言う…


「どうしようもないわ。流石に予想外だったというか……レベルの高い《人物鑑定》でも、他人のステータスまでは見えても、称号系に関しては見られなかったことを確認していたから。《万物鑑定》は、鑑定する対象を選ばないというだけで、そもそも根本的に能力の限界が違ったとは……ごめんなさい、創。それに樹も」


 鑑定系スキルの持ち主は少ないとはいえ、それなりの数がいるのも事実。

 それに人物鑑定系は職業が解放されてから増えてきていて、それがゆえにそのスキルが出来ることの限界もかなり分かってきていた。

 だからこそ、雹菜は《万物鑑定》であっても、称号は見られないと……そう考えていたのだろう。

 けれど結果は残念ながら、こうなってしまったというわけだ。

 

「……まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないよな。口が硬いって言ってるわけだし、大丈夫じゃないか?」


 場の空気を和ませようとそう言ったが、樹が呆れた声で、


「流石に能天気すぎる気がするけどなぁ……っていうかオリジンってなにさ」


「それをいうなら星宮家の継嗣ってなんだよ? いや、なんとなく想像はつくけど。そういや迷宮系の財閥で星宮財閥ってのがあるよな……」


 お互いにそんなことを言い合っていると、宮野さんが、


「《オリジン》というのは、不可視のエネルギーを自らの力のみで操作出来る人間のこと、そして星宮家の継嗣とは、そのまま星宮財閥の跡取り、ということのようですね。それ以上の情報は……ちょっと見るのが疲れるのでここではそこまでにしておきますが……」


 と言った。


「どうやら本当に全て見えているみたいね……本当に黙っていてくれるのですか?」


 雹菜が尋ねると、宮野さんは、


「ええ、黙っていますよ。公表してほしくないのなら。ですが……」


「ですが?」


 やはり、何か条件があるらしい。

 そう思って俺たちが身構えると、宮野さんは、


「私に少しばかり協力してはくれないでしょうか? 正直、信用できる人間というのがなかなかいなくて……こういった身の上ですから」


 そんなことを言う。


「協力って……一体、何のでしょう? それに、身の上というのは……」


「この身の上、というのは想像がつくでしょう。私は《万物鑑定》を持っています。つまり、目の前に相対する人物の情報をほぼ、丸裸に出来る。それが故に……私から視線を向けられたい、と思う人間などほとんどいないのですよ」


「さっきは金持った中年男性がここに来てたみたいですけど?」


 あれでも一応、こんな辺鄙な山奥まで来たのだ。

 そういう意味では勇気のある人間だと言えるだろう。

 そう思って尋ねたが、宮野さんは首を横に振った。


「あの方の称号欄には《詐欺師》《人攫い》《人身売買者》などの文字がありまして……」


「……あぁ、そういう意味で信用できない場合も、そりゃ、ありますよね……」


「そうなのです。そして、最近ここに来る方々というのは大体そんな人々ばかりなので……まぁ、追い返すような対応に」


 悲しい話だが、納得だった。

 というか、今の日本に人攫いとか人身売買とかしてる奴がいるのか。

 いや、冒険者は一人いれば肉体労働なら普通の人間の何人分にもなる。

 純粋に善悪を考えなければ、いい商品にはなるのか……ひどい話だ。


「でも、そういうことならどうして僕たちはこうして招き入れてくれたんですか? 正直、さっきおっしゃった僕たちの称号を見れば、それなりに怪しい気がしますが……」


 俺と樹の称号は見慣れないものだろう。

 何か妙な者の息がかかっているかもしれない、と思われて当然だと思う。

 それなのに、だ。

 これについて宮野さんは言った。


「まず一つは、雹菜さんは雪乃の妹だということがありますね。その紹介ですから……」


「……でもこう言ったらあれですけど、姉さんはあまり正直者とか善人というわけではないですが……」


 自らの姉についてなんてことを、と思うが、以前会った印象からしてそれは正しいよな。

 宮野さんの印象も同様のようで、笑って言う。


「確かに。ですが、それでいて私の前に立つことを躊躇しないんですよね。何を見られたところで問題ないとでも言わんばかりの感じで……それが、なんというか心地良くて」


「……ただ図太いだけですよ、それ」


「かもしれません。でも、私にとっては珍しい経験でしたよ。そしてそれは皆さんについても同じ……さっきは少し身構えられましたけど、今はさほど緊張されていませんよね?」

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