第161話 彼女の事情
「私は昔から、注目されることが多かったので、何を見られても恥ずかしくないと言いますか……姉さんと同じですね。他の二人は……どうかしら?」
雹菜がそう言って俺と樹に視線を向けたので、まず樹が答えた。
「僕も同じようなもんだよ? 星宮って名前、結構重くてね……まぁもうバレちゃったから言うけど、小さい頃からSPがついたりマスコミが追いかけてきたり暗殺者じみたのがやってきたりと散々だったんだ。だから逆になんか図太くなっちゃって」
改めて聞くと凄いな。
今や星宮の名を持つ企業は多国籍企業として世界各地で活動しているが、そもそもの本拠地は日本だ。
そして、その企業の躍進の理由となったのが、他ならぬ迷宮関係の事業である。
迷宮産出品の生活用品への利用から始まり、果ては軍事利用まで手広くやっている。
それでいて同族経営を守っている為、星宮の一族と言ったら今の日本でも五本の指に入る富豪であり権力者でもあるだろう。
樹はその一員というわけか……。
「でもあんまり顔は知られてないよな? 俺も知らなかったし……雹菜や宮野さんは?」
「私も知らなかったわね。というか、星宮家の顔写真はどこにも無いわよ。調べたって出てこない。まぁその理由は……推して知るべしという感じね」
「私も存じ上げませんでした。こうして目の前で鑑定しなければ気づかなかったでしょうね」
「そんなもんか……そもそも苗字聞いたときに気づくべきだったな……」
俺がそう言うと、樹は首を横に振って、
「うちの一族だからってみんな経営に関わってるわけでもないからね。苗字だけだと普通の人も少なくないし、流されるのが普通だよ。格好だって特別高級品着てるわけでもないしね、僕」
「似合ってはいるが、ファストファッションの方が多いよな、樹」
「金欠なんだよ……最近は改善されつつあるけど」
「なぜ超絶大企業の継嗣が金欠……」
「それはいいでしょ。それより、話を戻すけどどうして創は《万物鑑定》を前に緊張してないのさ?」
「あぁ、それか。俺はそもそも、スキルゼロ……見られて困るスキルがない期間が長かったからなぁ。いまだにその感覚が抜けなくて。まぁ、今はもう《オリジン》とか見られるとまずいなってのは頭じゃ分かってるし、実際、《ステータスプレート》を間違っても人に見られないようにとか、そのくらいは気を遣ってはいるんだけど……」
俺の言葉に宮野さんは、
「……言われてみると、確かにスキルが一つもないですね? 称号の《スキルゼロ》は本当にそういう意味なのですか。これは珍しい……それなのにアーツは《天沢流魔術》に《天沢流剣術》なんて一度も見たことがないものが……今更ですけれど、貴方は一体どういう……?」
これには俺も肩を竦めるくらいしか出来ず、
「俺にもそれは正直分からないんです。ただ、おかしなことばかり起こるのは確かなんですけどね……」
特殊なボスが出現したりとかだ。
ああ言うのはもう勘弁願いたいが、これからも起こるのだろうという予感は今もあった。
宮野さんは少し悩んだ様子で、
「……やはり、迷宮関連の出来事というのは……そういったイレギュラーがたくさんあるのでしょうね」
としみじみとした様子で言った。
これに何か妙な雰囲気を感じ取ったのか、雹菜が、
「……何か、思うところが?」
と尋ねると、宮野さんは、
「……これを見ていただけませんか。《ステータスプレート》」
と言って、《ステータスプレート》を出現させ、俺たちに提示した。
そこに記載してあったのは……。
名前:宮野 静
年齢:24
称号:《万物を見通す目》《人嫌い》《偏屈な隠遁者》
職業:無し
腕力:1
魔力:1
耐久力:1
敏捷:1
器用:1
精神力:1
保有スキル:《万物鑑定》
保有アーツ:無し
「……は?」
それが誰の声だったか分からないが、気が抜けたような、呆気に取られたようなものだったのは言うまでもない。
そのステータスの表示は、それだけ意外なものだったのだ。
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