第162話 静の実情
「な、なんなんだこの数字は……あっ、いや、どういうことですか?」
驚きの余り、敬語を忘れてそう言ってしまった俺だったが、宮野さんは、
「いえ、別に敬語は外していただいて構いませんよ? 名前も静で大丈夫です」
と言ってくれる。
あくまでも社交辞令かもしれないが、俺のステータスの全てを知られているのだ。
今更気を使ってもなぁ、というのもあって、
「じゃあ、お言葉に甘えて……それで、一体なんなんだ、この数字? 一般人よりも低いぞ」
一般人のステータスをの数字に直せば、その平均は、大体5だと言われている。
そこからすると、一般人の五分の一の数字しかないことになる。
子供ですらもステータスに直せば2か3はあると言われているくらいだ。
それなのに静さんの数字は……。
「ええ、その通りです。我ながら恐ろしく低いですね。素の力だと……冗談抜きに、箸よりも重いものは持てません」
「お嬢様かよ……いや、冗談はともかく、そんな数字じゃ、生存すら危ういんじゃ。でも……さっき、ここを尋ねていた冒険者の適性があるだろう人を叩き出してたよな? しかも、少なくとも、五十キロ以上のアタッシュケースを余裕綽々で運搬できる人を」
そんな人間は冒険者出現前の世界だと、滅多にいないだろう。
それこそ格闘家やアスリート、ボディビルダーなどでなければまず不可能と言っていい。
にもかかわらず、静さんはこの幼児にも劣るステータス値でそれを可能にしている。
「それについては私も気になってました。でもちょっと推測もついてます……結構色々身につけていらっしゃいますね?」
雹菜がそう言った。
彼女の視線の先には、静さんの手があり、そこに注目するとどの指にもアクセサリーと思しき指輪がはまっているのが見える。
そういえば耳にもピアスをしていて、よく似合ってはいるのだが……なんというか、このログハウスの中のレイアウトと比べると、ちょっと妙な気がした。
家の中の家具やら生活雑貨やらは、ほとんどがシンプルかつ装飾の少ないものばかりなのだ。
つまり、シンプルなものを好んでいる人に思える。
それなのに、静さんのアクセサリーの数は、多すぎる。
服装それ自体もそこまで派手というわけではないのに。
ただ、俺のようなファッション朴念仁にはどうやってバランスを保っているのか分からないが、アクセサリーも含めて、そのファッションはとても洗練して見えるのは間違いないが。
彼女単体なら特段違和感はない、ということだ。
あくまでも、家のレイアウトと比べると、妙な気がするというだけで。
雹菜の言葉に、静さんは、
「雹菜さんももっとフランクで大丈夫ですよ。もちろん、樹さんも……で、私のステータスについてですが、ご推察の通り、素のステータスですと歩行すら危ういレベルであってもこのように普通に活動できているのは、全てこれらの魔道具のお陰、ですね」
「やっぱりそうですか……」
納得した雹菜だったが、これに樹が、
「でも、魔道具関係ってあまりつけすぎると効果が干渉しあってゼロになることが多いって聞くけど……それに、深層で得られるようなものならともかく、そうでもなければステータスを何倍にもしたりすることはできないはずだけど……」
と首を傾げる。
この疑問は当然だろう。
静さんが今、あの中年男性を吹っ飛ばせるくらいのステータスがあるというのなら、少なくともステータスはいずれも十や二十を超えていなければならない。
けれど、それは素の能力値の十倍二十倍ということになってしまう。
それはなかなかに難しいのではないか。
そういうことだ。
けれど静さんは、
「幸い、私には《万物鑑定》の力があります。いずれの魔道具にどのような効果があり、どの魔道具と干渉し、どのような相乗効果があるのかまで全て、分かるのです。そのお陰で、そうですね……一般的な冒険者ですと、C級より少し低い、くらいのステータスまでは上げることが出来まして、なんとか普通に生活をする程度には慣れているのです」
「……今、相乗効果、と言いましたか? もしかして、低層で得られるような魔道具にも……?」
雹菜が恐る恐る尋ねると、静さんは、
「ええ、それほど多くないですが、そういったものは割とあります」
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