第163話 万物鑑定の力
静さんの言葉に驚いているのは、低層の魔道具にはそういったものはほとんどないと思われているからだ。
相乗効果を持つような魔道具は、たとえば有名どころでいうなら《迅雷シリーズ》と呼ばれるようなものがあり、《迅雷の剣》《迅雷の鎧》《迅雷の盾》といった、共通の《迅雷》という名称がついた武具を一緒に装備すると、個々につけたよりも数倍にステータスを伸ばす効果があると知られている。
他の似たようなもので、つまり、魔道具同士の相乗効果、というのはそういった目印があるものでしか生まれず、別々のシリーズとかを同時に身につけても望めない、というのが今の常識だった。
しかし、静さんの話を聞くと分かるのは、必ずしもそういった目印がなくとも、魔道具を複数身につけての相乗効果が望める、ということで……。
「……それはどうやって分かるのですか?」
雹菜が恐る恐る尋ねるが、静さんは首を横に振って、
「それは今は内緒ということで。私の武器の一つですから……ただ、いずれは誰かが気づくはずです。もう気づいている人もいるのかも」
「……そうですか」
がっくりと来た雹菜だったが、静さんは指をピッと立てて、
「ですが、後でお教えしても構いません」
「それは先ほど言っていた、協力をすればと……」
「ええ、そういうことです。今はなんだか私ばかり皆さんから情報を得て、まだ何も渡せていないので対等でもないと思いますから……皆さんがここに来た目的の方を先に片付けて、それから魔道具関連の情報などをお教えすることを報酬に、という方がいいのではないかと思いました。私が皆さんから得た情報についてはしっかりと口を噤む、というのも勿論お約束した上で」
「いいのですか?」
「構いませんよ……私はとにかく、信用出来る人間が欲しいのです。最低限、契約をお互いに守ると信じられる相手が。皆さんはきっとそういう相手になってくれるでしょう」
「……分かりました。では……創」
雹菜がそう言って、俺の方に視線を向ける。
これはあれだな。
《卵》を出せってことだ。
そう思った俺は腰からそれを外して、ごとり、とテーブルの上に置いた。
静さんはそれを見て、
「……なるほど、これを見て欲しくてここに来たのですね……」
と深く頷く。
「鑑定出来そうか?」
俺が尋ねると、静さんは頷いて、
「私を誰だと思っているのです。《万物鑑定》持ちですよ。残念ながら職業に《鑑定士》の文字はないですけど」
そういえば、そうだったな、と思い出す。
ただ……。
「まだ《鑑定士》の職業は確認されていないからな。鑑定系のスキルが目覚めやすい職業は見つかってはいるけど……」
「らしいですね……私が《転職の塔》に行けば、《鑑定士》が出るのでしょうか……」
「行ってないの?」
樹が尋ねると、静さんは微妙な表情で頷いて答える。
「ステータスがステータスですからね。冒険者が多く集まる場所に行くのは怖くて。魔道具で上げているとは言え、何かの拍子に外れてしまった時のことを考えると……ですから、私がどんな職業に就けるかは、分からないのです」
「なるほどね……」
「それはともかく、鑑定が終わりましたよ。結果はここでお伝えしても?」
話しながらも《卵》をしっかりと鑑定してくれていたようだ。
流石に《万物鑑定》をきっちりと使いこなしているのだろう。
スキルとして身につけていても、使いこなせていなければ上手く使えないことは、間々ある。
戦闘系でも使うタイミングを外してしまったりな。
鑑定系だと、テーブルに置いてある三本ある剣の真ん中のものを鑑定しようとしたら、左のやつをしてしまったとかそんなこともあるらしい。
《万物鑑定》だと、ここに存在するすべてのものが鑑定対象になるだろうし、使いこなすのは大変そうだと思った。
ともあれ、
「ええ、結果はここで言ってもらって大丈夫です。特に隠したいとかは……創、ないわよね?」
念押しではないが、雹菜がそう言ったので、俺は頷いた。
「あぁ。誰か他に聞いてるならあれだけど、雹菜と樹になら別にな」
俺の答えを聞き、静さんが、
「では……」
そう言って、鑑定結果を口にする。
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