スキルなしの最弱現代冒険者は、魔力操作の真の意味を理解して最強冒険者への道を歩む

湖水 鏡月

第1話 無情なる受付

「……誠に申し訳ないのですが、天沢様にはスキルが確認出来ませんので、当ギルドでの採用試験の受験資格を満たされておりません。どうぞお帰りを」


 申し訳なさそうに、しかしながら一切の取りつく島もなくそう言い切ったのは、日本でも有数のギルド《青帝の刃》の受付職員だった。

 大規模ギルドらしく、ビル一棟丸々、ギルドビルになっていて、俺、天沢あまさわはじめはここなら俺でも雇ってもらえるのではないかと希望を抱いてやってきたのだ。

 それなのに、現実は非情だった。


「そ、そこをどうにか! 事務員でもなんでもいいんです! 学校で俺だけ一つも内定が出てなくて……」


「重ね重ね、申し訳なく存じますが、当ギルドの採用試験の受験資格は、何か一つスキルをお持ちであることが最低条件となっております。これに例外はございません。ただ……」


「ただ?」


「本当に単純なスキルでしたら、訓練によって身につくことはご存知かと思います。まずは、何でも構わないので一つ身につけてからいらっしゃれば受験資格を満たせますので……こちら、当ギルドで公開しておりますスキルの取得条件表になります」


 そう言って受付はパンフレットのようなものを差し出してきた。

 受け取ると、そこには最下級スキルと言われるものと、その取得条件一覧が記載してある。

 俺が受け取ったのを確認し、受付は深く頭を下げ、


「……天沢様がもう一度ここにいらっしゃることを、切に願っております。本日は当ギルドをお訪ねいただき、ありがとうございました」


 そう言った。

 丁寧だが、意訳すれば「帰れ」だろう。

 分かってる……。


「……ありがとうございました。すみません、無理を言って……帰ります」


 そうして、俺はギルドビルを出たのだった。

 

「こんなのもらっても、無駄なのにな……」


 パンフレットを見ながら、俺はそう呟いた。


 *****


 三十年前……つまりは、ちょうど日本がバブル経済真っ只中のことだ。

 この世界に突然、迷宮ダンジョンと呼ばれる奇妙な構造物が出現した。

 それだけならまだ良かったのだが、問題はそこには大量の魔物、モンスターと呼ばれる存在がいたということだろう。

 基本的に魔物は迷宮の中から出てくることはない。

 しかし、長い間放置していると、ある日突然《海嘯》と呼ばれる現象を起こす。

 迷宮内の魔物が、それこそ津波のように外に這い出てくるのだ。

 それによって滅びた都市は世界にいくつもあって、今では魔物が支配する土地となってしまった場所もある。

 そう言うところは《魔境》と呼ばれていて、人類がそこを取り戻すべく、戦いが続いている。

 

 ただ問題があって、魔物たちに対しては現代兵器はほぼ役に立たない。

 かろうじて銃は効くのだが、核を《魔境》に撃ち込んだ国があった。

 その結果どうなったかと言えば、魔物たちは平然とした顔でそこにいたままだったのだ。

 これに世界は恐怖の渦に押し込まれた。

 どんな理由かはわからないが、人類最強の兵器と言っていいものがまるで通用しないのである。

 もはや人類は滅びるしかないのでは。

 そんな報道が相次いだ。


 けれども、意外なことに未だに人類は普通に生存している。

 各地を《魔境》に飲み込まれながらも、一進一退の攻防を続けて。

 なぜか。

 これは非常に簡単な話で、強力な魔物の出現からしばらくして、彼らに対抗できる人間が現れ始めたからだった。

 彼らは冒険者と呼ばれ、《スキル》と呼ばれる特別な力を持ち、それらを使うことによって魔物たちを倒す事が出来たのだ。

 人類は滅亡の危機から免れ……けれど、魔物や迷宮を一掃することはできなかった。

 

 迷宮の出現から三十年。

 人類は今も、迷宮と魔物と、戦い続けている……。


 *****


「……そんな話は今更言われなくても知ってるんだよ」


 ボソリ、と独り言を言ってしまったのは、狭霧高校の三年四組の教室の中でのことだった。

 今は授業中で、教壇には教師が立ち、近現代史を大雑把に要約しながら語っている。

 しかし、そんな教師……社会科教諭の金山圭吾、通称《カナ先》は俺の独り言を聞きつけたのか、くるくると教科書を丸めて思い切りぶっ叩いてきた。


「おい、天沢。お前俺の話聞いてたか!?」

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