第2話 魔力操作

「……くそ、カナ先の野郎、思い切り叩きやがって……」


 広い校庭で実習服を纏いながら、ずきずきとした頭を押さえていた。

 一時間前のことなのにいまだに痛む。

 しかも、叩いたあと、延々とネチネチ文句を言い続けてきて、それだけで授業が終わってしまった。

 幸いなことに、カナ先の授業など誰も聞きたい人間がいないので、クラスメイトから恨みを向けられることはなかった。

 別に不真面目なやつしかないというわけではなく、カナ先の授業はとにかくわかりにくい上、もうそんなのは知っているという基礎しか教えないのだ。

 うちの高校は冒険者育成高校としてはこれでそれなりのエリート校なので、基礎なんて教えられずとも既にみんなやってる。

 俺のような落ちこぼれであってもだ。

 そもそも俺は落ちこぼれと言っても、勉学の方はそれなりで、ただ実習系がゴミなだけだ。

 スキルが一つもないんだからな……はぁ。


「おい、はじめ!」


 がつん、と頭を手のひらで叩かれる。

 ちょうどカナ先が殴った箇所と重なり、ジンジンとした痛みが刺すようなものに変わった。


「ってぇ!? 誰だよ……って、しんか。お前、叩く場所考えろよな……」


 振り返ると、そこにはクラスメイトであり幼馴染、かつ友人でもある柴田慎がいた。

 俺と同じ、スキル実習のための実習服を身につけていて、なかなかに様になっている。

 シュッとした長身の男で、顔も結構なイケメンだ。

 そのためかなりモテるのだが、なぜか俺と連んで底辺グループで楽しげに過ごしている変わり者でもある。

 まぁ、昔からの付き合いだから、というのが一番大きいだろうけどな。


「悪い悪い、そんなにダメージあったとは思ってなくてよ。しかし今日のはお前も悪いぜ? いくらカナ先でもあんなに聞こえるように文句言ったら腹立てるだろうが」


「まぁそれはそうだな……」


「わかってるんならやめときゃよかったのに……もしかして、なんかあったのか?」


 いつもならたとえカナ先の授業であっても静かに授業を受けている俺である。

 今回、こんな暴挙に出た俺に奇妙なものを感じたらしい。

 実際、何かあったからあんな風に振る舞ってしまったのだ。

 俺はそれについて慎に言う。


「……あぁ。昨日、《青帝の刃》のギルドビル行って来たんだけどさ」


「お、就活か? だけどあんまり芳しくなかったみたいだな……」


「そういうことだよ。もう門前払いも門前払い。スキル取得条件表だけ渡されておしまいさ」


「あー、そりゃ残念……だが、でも悪くないんじゃないのか?」


「なんでだよ」


「中小ギルドならともかく、大規模ギルドのスキル取得条件表はセミナー受けないとくれないんだぜ? 最下級スキルのだけでも、大規模ギルドが抱えてるものには有用なのが多いからな。三ヶ月に一回くらい更新され続けてるし」


「えっ、そうなのか!? 俺、どのギルド行っても必ず貰えるんだが」


「……なんでだよ。俺だってセミナー三回くらい行って初めて貰えたくらいなんだが」


「……必死に縋りついたのがよかったのかな?」


 そして俺は受付での無様かつ必死だった様子を慎に伝えた。

 慎はそれを聞いて笑い、


「はははっ! なるほどな……同情買ったのか。そんなうら技があるとは思ってもみなかったぜ」


「笑い事じゃねぇ……でも、そういうことなら、あんな冷たい表情してた受付のお姉さんもそこそこ同情してくれてたんだな……それでも受験資格すら持てない、か。厳しいなぁ……」


「何か一つスキル取ればいいだろうが……って、お前に言うのは嫌味か」


「そうだよ。魔力だったらいくらでも操れるんだがなぁ……」


 体内に宿る魔力を、俺はぐるぐると動かす。

 腹から掬い出し、身体中に浸透させたり回したり一部に集めたり。

 それを感じ取った慎は気持ち悪いものを見るような顔をして、


「相変わらず化け物じみた魔力操作だな。それだけ出来るのになんでスキルは取得できないんだよ」


「そんなの俺も知りたい……」


 そんな話をしてると、


「……はじめ! しん!」


 と後ろから呼びかけられる。

 そちらに視線を向けると、そこには女生徒が一人立っていた。

 それは慎と同じくクラスメイトであり、かつ俺の幼馴染でもある山野美佳だった。

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