第3話 炎術の威力
「なんだ、美佳か……何の用だよ、授業中だぞ?」
俺がそう言うと美佳は、
「それはこっちの台詞よ。スキル実習はちゃんと自分のスキルを使って練習しないとダメじゃない。それなのに二人揃ってずっと喋ってるみたいだから……!」
確かにその通りで、だが俺には問題があることをこいつも良く知ってるはずだ。
顔を顰めつつ、俺は言う。
「俺はスキルなんて何一つ持ってねぇんだよ。知ってるだろうが」
「もちろん知ってるけど、ない人はスキル取得条件満たせるように頑張れってこと!」
「どれを満たそうとしても全然身につく気配ないんだけどな……」
俺がそう言うと、慎が笑って、
「そうだよな。一年の頃は、マジで一般公開されてるありとあらゆるスキル取得条件を満たすために試行錯誤してたもんなぁ……」
と言ってくる。
「結果として、同じようにやってたお前が大量にスキル身に付けたのにはなんか笑っちゃったよ。これが才能の差か?みたいな」
「最下級スキルに才能も何もないはずなんだがな……。まぁ、そのお陰で俺は大手ギルドの内定がいくつも出たから、お前のお陰とも言える。ありがとうよ、相棒」
「どういたしまして、相棒」
そんな馬鹿話をしていると、聞いていた美佳がぷりぷり怒り出して、
「あんたたち……結局真面目にやる気ないんじゃないの!?」
「そんなことはない。ほれ、見ろよ。この俺の魔力操作を」
そう言って、体内魔力を気持ち悪いと慎に言われるほどの速度で動かしまくると、美佳も引いて、
「ひっ……。怖いのよ、それ。そもそも、それだけできるのにどうして
引かせて追い払おうと思ったのだが、どうやら失敗したらしい。
美佳は最後の方、少し涙声になっていた。
こいつは別に、俺や慎に本当に授業を真面目にこなせ、だけ言いにきたわけではなく、俺に何とか発破をかけようとしたのだろう。
ここ最近、本当にスキル実習は俺、真面目にやってないからな。
まぁ、三年も後半の今、この授業はほぼ自習になってしまってるので、クラスの半分くらいは俺たちと似たような取り組み方しかしていないが、俺以外はみんな、ちゃんと何かしらのスキルを持っている。
何もないのにだらけているのは俺だけだ。
「神様ってやつはだいぶ不公平な存在らしいな。頑張ったやつに才能をくれるわけじゃないんだよ」
「でも……あんたこのままじゃ、就職も……」
「おぉ、最悪、なんかバイトでも見つけるさ。それより、美佳。お前もいいところから内定出たんだろ? 確か五大ギルドの一つから」
「耳が早いわね? 確かにそうだけど。《炎天房》からね」
「マジか! すごいじゃん。おめでとう」
《炎天房》と言えば、日本でもトップクラスのギルドであり、五大ギルド、と呼ばれるうちの一つだ。
就職するには、強力なスキルを持っていることはもちろん、学力も身体能力も高いレベルであることが要求される。
美佳はそのいずれも満たしているわけだ。
それに、炎系スキルを持っていると優遇されると聞くが、確か美佳は……。
「お前、《上級炎術》持ってたもんな」
そう言うと、美佳は頷いて、
「うん。こないだ《中級炎術》から上がったばっかりだから、まだあんまり使いこなせてないけど……」
そういった美佳に、慎が、
「そういや見たことなかったな。ついでだ、見せてくれよ」
そう言うと美佳が頷いた。
「いいけど、少し離れてて、二人とも」
そして、美佳の体内魔力が動き出す。
スキルを発動させるには、魔力や闘気、聖気や精霊力などの、不可視の力を持っていなければならない。
それらを意識的に扱い、脳内に存在するスキルスイッチと呼ばれるものを刺激することで発動させるのだ。
このスキルスイッチ、と言うのも具体的に物質として脳内にあるわけではないが、概念としてそう言われている。
美佳が十分に魔力が貯まったのを確認すると、スキルスイッチを押したのだろう、掲げた手から、巨大な火球が現れた。
そして、それが校庭に設置された大きな的……魔術的に強化されたものだ……に轟音と共に命中した。
周囲の生徒たちはそれを唖然とした顔で見ていた。
流石にあれほどの力を持つ生徒というのは、他にいないからだ。
とんでもない力を持ってるな、俺の幼馴染は、と深く思った。
「どう?」
満足そうな顔でそう言った幼馴染に、俺と慎は無言で拍手を送ったのだった。
*****
「……でも、何か変だったな? 魔力ってあんな風に見えるもんだったっけ……?」
教室に戻り、先ほどのことを俺は思い出す。
というのも、美佳が炎術を放つ時、彼女の体内魔力の動きが、いつもより詳細に見えたのだ。
それどころか、スキルスイッチを押した後の、スキルとして発動したそれについても良く見えた。
今までそんなことは一度もなかったのに。
「ま、どうでもいいか……それより、次の授業は移動教室だったな」
ガサゴソと机の中の置き勉コレクションから、次の授業の教科書を取り出して歩き出す。
この日、俺の体に重要な変化が起こっていたことなど、俺は全く気づいてもいなかった。
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