第4話 家
「さて、と。今日は頑張るぞ!」
家を出るときに、そう言って気合いを入れる。
「ちょっと
しかしいきなり出鼻をくじかれる。
俺にそう声をかけたのは、居間で掃除機をかけていたうちの母親である。
普段は海外を飛び回っているのであまり家にいないのだが、今はちょうど休暇を取っているらしく、居間にいたのだ。
いつもいないからその感覚で独り言を言ってしまった俺が悪いな、これは。
ちなみに父も母とほぼ同じような仕事の仕方をしているので、やはり家にいないことが大半だ。
今もアメリカだかイタリアだかにいる、と昨日メールが届いたが、返していないのでどっちだかわからない。
何度も悲しい顔文字が送られてきているが、やはり無視している。
面倒臭い。
それよりも今は母さんに言い訳をしないとな。
「いや、ちょっと自主練に。そろそろ俺も就職を決めないとならないからさ。スキルをなんか身につけないと……」
母もまた、俺が何一つスキルを身につけられていないことを知っている。
高校に入った時はいずれ冒険者になれることを疑われてはいなかったが、今では母はだいぶ疑っているようで、怪訝そうな顔で、
「……大丈夫なの? スキルを身に付けるのって、結構大変だって聞くけど」
と言った。
母は一般人で、その辺りの事情に詳しくない。
それにしては的確な質問のような気もするが……所詮一般人だ。
適当なことを言えばケムに巻ける。
「大丈夫だって。簡単な取得条件のスキルとかたくさんあるんだ。まぁ、今まで色々やってどれも身につけられてないけど……簡単なやつはまだ残ってるし」
「……そう。まぁ、あんたの人生なんだから、やめろとは言えないけど……でも、あんまり心配しなくてもいいからね。あんたがもしも無職のまま死ぬまで過ごしても大丈夫なように、私もお父さんも一生懸命働いてるんだから」
「えっ? 佳織の学費とかのためじゃなかったのか?」
佳織は俺の妹で、今は自室にこもって勉強をしている。
今、中学三年生で、受験勉強だな。
一体どんな進路に進む気なのか全くわからないというか、話してもくれない反抗期だが、俺と違ってしっかりしているし真面目な性格なので問題とは思っていない。
昔は医者とか看護師になりたい、と言ってたので、気持ちが変わらなければそのつもりなんだろう。
医学部というのは金がかかるというし、だからこそ、両親は世界中を飛び回って大変な思いをして仕事を頑張っているのだと思っていた。
そもそも両親が仕事好きというのもあるとは思っていたが。
ただ、俺のためだとはまるきり考えてなかった。
両親とも放任主義というか、どうしようも無くなったらのたれ死ねば?くらいの感覚をナチュラルに持ってるようなタイプなので、俺もそんなものかと思っていたが、実際にはあれは軽口で、本心は心配してくれていたようだ。
というか、あれか。
のたれ死んでも仕方ない、みたいなことを話すようになったのは、俺が冒険者を目指すと言い始めたあたりか。
あれはそうなる可能性があるからやめておけ、という遠回しの牽制だったのかもな、と今気づいた。
今更な話だけど。
まぁ、ともかく、そういう話ならありがたいが……。
母は言う。
「佳織から話を聞いてないの?」
「え、何が?」
「聞いてないのね……まぁいいわ。あの子は大して学費かからない予定だから大丈夫よ。それより、あんたのこと」
「俺ばっかり親の脛齧りまくるのはなんか情けないんだけど……」
「子供がそんなこと気にしなくていいのよ。ともかく、そう言うことだから、目一杯頑張りなさい。呼び止めちゃったけど、もう出なくていいの?」
玄関脇の時計を見ながら母がそう言ったので、俺も時計を確認して、
「あ、やばっ。じゃあ母さん、行ってくる!」
「はい、いってらっしゃい。気をつけてね」
そうして、俺は家を出た。
俺は一体このあとどこに向かうつもりか。
それは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます