第401話 辿り着いたその場所は

「……ここにいる魔物、強すぎないか……?」


 ブラックゴブリン戦を終えた後、壊してしまった魔槍のハルバードを残念に思いながら、俺は先へと進んでいった。

 その道中で、魔物が何度も出現したのだが、いずれも強力で、ノーマルゴブリンなど一匹もいなかった。

 多くはゴブリン系の魔物だったが、まるでゴブリンの博覧会のように様々な種族が出現した。

 ブラックに始まり、ホワイト系やブルー系、それにメタル系など、迷宮でも滅多に見られないと言われるものばかりだ。

 いずれも強力で、とてもではないが無傷ではいられなかった。

 満身創痍……とまでは言わないが、結構今の俺の体は切り傷だらけである。

 それでもなんとか進めているのは、倒した魔物達が回復薬を持っている場合があったので、そのお陰だ。


 不思議なことなのだが、ここで遭遇するゴブリン達は皆、武人気質というか、敗北した後はどこか満足そうな顔をして倒れる。

 戦っている最中も、様々な工夫はしてくるし、そもそもの技術が達人クラスではあるけれども、汚いことはしない。

 本当に、武術家とか騎士と戦っているような、そんな気分がしたのだ。

 まぁ、俺は別に騎士と特別な面識があるわけではないけど。

 以前、異世界に行ったときに会ったことがあるくらいか。

 でも命を賭けた殺し合いとかしたわけじゃないしな。

 また話は別だ。


 なので、そんなゴブリン達は、俺が結構な傷を負っているのを見ると、懐から何かアイテムを死に際に差し出してくれる場合が何度かあった。

 最初のうちは罠かと怪しんでいたが、ゴブリンの傷に少しかけてみて試したりして、安全なものしか渡してこないと理解すると、普通に使うようになっていった。

 どうも、妙に親切すぎて奇妙だが……もらえるものはもらっておいて、いいだろう。

 というか、使わなければ多分、俺死んでたんじゃないかな、ここまで来るまでに……。

 それくらいに厳しい戦いが、何度かあった。

 そのお陰か、彼らの魔力を吸収し、俺はさらに強くなっているが……。


「……それでも、ここ乗り越えられるか不安だな」


 俺は目の前に存在に言った。

 そこには、この異世界、最後の浮島があり、そして中心には意外なことにノーマルゴブリンに見える存在が、背中を向けて立っていた。


 けれど、俺の勘は、あれがただのノーマルゴブリンではないと告げていた。

 見ているだけでその強大な存在感が伝わってくるからだ。

 細い腕、緑の肌、いかにも矮小な体躯。

 どう見てもノーマルゴブリンに過ぎないというのに……。

 

 あれと戦えと言われても正直、勘弁願いたい。

 だが、そういうわけにはいかないのは、そのノーマルゴブリンの背後にある、大きな黒い穴を見れば分かる。

 あれは、おそらく地球へのゲートだろう。

 チラチラと、サブリミナルのように向こうの世界の様子が覗いている。

 そしてその景色は、俺がこの世界に来る前にいた、《雑魚の迷宮》の見覚えがある場所であった。

 

「……仕方がないか……」


 俺は剣を抜き、油断せずに構えながら、じりじりとその浮島に上陸する。

 いきなり襲いかかってくる可能性もあるからだ。

 そういう場合も、ここに来るまでにはあった。

 別に汚いやり方はしないが、不意打ちくらいはしてくる。

 それくらいのことはあったということだな。

 俺も俺で、似たようなことをやった時もあったので、お互いそこは言いっこなしである。

 さて、このゴブリンはどうか……。

 そう思って近づくと、突然、くるりとそのゴブリンが振り向き、


「……おぉ、おぉ……これは、ここまで長らえた甲斐があったというものじゃ。本当に来たのか……《オリジン》よ」


 そう言った。

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