第400話 ブラックゴブリン戦

 ブラックゴブリンがハルバードを縦横無尽に振り回し、暴れる。

 俺は最初、自らの武器、巨大な黒剣の質量でもってハルバードの破壊を試みようとした。

 それが最も容易に思えたからだ。

 しかし、ブラックゴブリンは俺のその狙いを察して、巧みにハルバードを扱った。


 俺が上から叩きつけるように黒剣を振り下ろすと、素早い足さばきで後ろに下がり、そこから反転して突きを放ってくるブラックゴブリン。

 そんな彼に対し、俺は術を放つべく集中する。

 選んだのは、雷術だ。

 出も早いし、消費も少なく、そして何よりも効果的だからだ。

 防御も難しく、命中すれば痺れが発生するため、隙も生まれる。

 そう思ってのことだった。

 

 けれど……。


「なっ……くそ、効果なしか!」


 確かに命中したはずの雷撃だったのだが、全く気にすることなく突きを継続してきたのだ。

 俺は慌てて体をずらし、命中地点から避けるも、ブラックゴブリンが持つのはハルバード。

 俺が避けたのを認識すると同時に、即座にくるりと斧頭の向きを調整してそのまま俺を狙って薙いでくる。

 耐久性だけでなく、頭も回る奴だな……。

 

 それでもまだ、反応できない速度ではなかったのは、事前に自分自身に補助をかけていたからだ。

 俺は思いきり地面を蹴り、後退する。

 ブラックゴブリンはそこからもさらに追撃すべく踏み出しかけたが、飛び下がる俺がそれと同時に《炎術》を形成していることを察知すると足を止めた。


「……油断もない、か。くらえ!」


 飛びながら放った炎は、そのままブラックゴブリンに向かう。

 魔力に飽かせて作り出した巨大な炎弾で、命中すれば黒焦げになるはず……なのだが。

 ブラックゴブリンは落ち着いた様子でハルバーどを握り、そして直前で思い切り薙いだ。

 すると、炎弾はまるで存在しなかったかのようにかき消えてしまう。

 そこでやっと俺はなるほど、と理解した。


「魔剣、魔斧の類か……。術系の無効化が出来るんだな。雷撃も、あれに当たったからそもそも消されたか……」


 俺の戦い方は、器用貧乏なものだ。

 ステータスはそれなりに上がってはいるが、元々スキルを使えなかったこともあり、魔術でのスキル再現と活用を考えた戦い方をしている。

 だから、というわけではないが、真っ向勝負は、無意識的に避けていたところがある。

 でも……。


「……お前とは、真正面からやり合うしかなさそうだな」


 覚悟を決めて剣を握り、ブラックゴブリンに向かい合うと、どことなく嬉しそうな顔でブラックゴブリンはにやりと笑った。

 ゴブリンの笑顔と言えば、狡猾で不快なものが基本のイメージだが、このブラックゴブリンのそれは違っていた。

 まるで真正面から戦えることを喜んでいるような……。

 まぁ、ゴブリンにも武術家気質の変わり者もいるということだろうか。

 迷宮の深層では、そのような存在も稀に見られると聞く。

 こいつはそういった類なのだろう。


「……はぁ、いいぞ。やってやる。どっちが勝っても、言いっこなしだからな……」


「グルル……」


 間合いをじりじりと縮めていき、そしてお互いの距離に入った。

 そう認識した瞬間に、同時に動き出す。

 ハルバードはリーチもあるし、このゴブリンは達人だ。

 だからこそ、小細工ではなく挑むべきだと俺は思った。

 自らにかけられる補助術を、その限界まで俺はかけていく。

 単純な、しかし研ぎ澄まされた一撃を叩きこむ。

 そのつもりで。


 そして俺は黒剣を振りかぶる。

 今までそれを振るってきたどんな瞬間よりも軽く、手に吸い付くようにすら感じた。

 周りの時間も遅く感じる。

 術の効果ではなく、単に俺の興奮が脳神経を回転させ、そうさせているのだろう。

 ゴブリンのハルバードはそれでも俺の心臓をまっすぐに狙っているが……俺の方が、早く、重いはず。

 避けることなく、俺は振りかぶった黒剣を思い切り振り下ろす。

 まず感じたのは金属を断ち切る感触。

 それから、ぐしゃり、と何かを潰す感触だ。

 脳天を狙ったのだが、僅かな隙間にハルバードを差し込まれたらしい。

 俺の黒剣はゴブリンの肩に下ろされていた。

 けれど、そこからでも地面まで振り下ろせば与えられるダメージは変わらない。

 そして事実、俺はその通りにしたのだった。


─────────


後書きです。


ついに四百話に到達しました!

これからも頑張ってくのでよろしくお願いします!


もし少しでも面白いと思われましたら、

⭐︎⭐︎⭐︎→★★★

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どうぞよろさ!

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