第399話 接敵

「……最初の相手は、お前らって訳か」


 俺がそう呟いたのは、目の前にいる魔物二匹、ゴブリンに対してであった。

 いくつかの浮島を渡ると、ついに魔物がいる浮島に到達したのだ。

 出来ることなら避けたかったが、どういう道筋を辿るにせよ、ここはまず通らなければならない。

 そういう位置にある浮島で、どうしようもなかった。


 と言っても、ゴブリンたった二匹程度なら、普通にすんなりと倒してしまえば良いだろう。

 ある程度の腕を持った冒険者ならそう言うかもしれない。

 しかし、残念ながらそう簡単な話でもなかった。

 俺の目の前にいる二体のゴブリンは、普通のゴブリンではないからである。

 通常のゴブリンというのは、緑色の肌をして、どちらかと言えば痩せぎすの体に少し膨らんだ腹をしているものだ。

 ただ、その見た目から侮ると痛い目を見る程度に、素早く動くし力も強い。

 それでもある程度の冒険者からすれば、雑魚と言える魔物であることも間違いない。

 ただし、俺の目の前にいるゴブリンの肌の色は、そもそも緑ではなかった

 漆黒の、つやつやとした肌を持っており、身長はノーマルと同様低くはあるが、その体は引き締まってゴツゴツとしており、どことなく、ドワーフを想像させるような体系をしている。

 そして手にはそれぞれ、斧とハルバードを持っていて、構えにも隙が見られなかった。

 彼らは、ブラックゴブリン、という種類で、通常のゴブリンよりも何段も上の強さを誇ると言われる。

 迷宮でも中層以降に出現する魔物で、相手をするにはC級冒険者が何人か必要、とまで言われる存在だった。

 なぜそんなものがここにいるのだ。

 俺は頭を抱えたくなったが、それでも……。


「やるしか、ないっ!!」


 そう、気合いを入れて地面を踏み切る。

 こいつらを倒せなければ、俺は日本に戻れないのだから、当然のことだ。

 それに、今の俺にとっては、勝てない相手ではないはず。

 一人で相手したことなど勿論、まだないが、それでも……。


 剣を振りかぶり、まずは手前側にいた斧使いのブラックゴブリンに俺は襲いかかる。

 リーチが短く、しかしその分破壊力に勝る斧。

 積極的に打ち合うのは不正解だろう。

 それよりも……ここは突きだ。

 そう思って俺は雹菜のスキルを参考にした技を放つ。

 細剣系のスキル、《突穿ペネトレイト》である。

 この技の良いところは、通常の突きよりも速度も破壊力も上がることだ。

 その代わり、外れると少しばかりスキル後硬直というのが発生する場合がある。

 けれど、俺が使うのはあくまでもスキルのものまね、体内の魔力の流れを模倣したものだ。

 だから仮に外したとしても、硬直することはない。

 その部分の魔力の流れは取り除けるからだ。

 明らかに優遇されているかのようだが、そうできるまでにはそこそこの訓練が必要だったし、多少無理な魔力の流れにしてあるから、体にかかる負担はこちらの方が大きい。

 そう世界は優しく出来ていないのだな。

 それでも、十分に使えると判断してこの技を選んでいるのだけど。


 実際、俺の突穿ペネトレイトに斧使いのブラックゴブリンはろくに反応も出来なかった。

 その首筋に一瞬で突き刺さり、薙ぐ。

 このまま押し込んで、もう一体……と思ったが、そこでぞっとして俺は体を引いた。

 すると今の今まで俺の体があった場所に、巨大な質量を持ったハルバードが通る音が響く。

 後ろのハルバード持ちのブラックゴブリンが、斧持ちのブラックゴブリンの被害を考えずに襲いかかっていたらしい。

 二匹でいても、仲間ではない、か……?

 それとも、俺の攻撃で絶命したことを察したか。

 どちらにしろ、斧持ちの方よりもずっと強敵らしい。

 俺は改めて気を取り直し、距離を取って剣を構える……。


─────────


本作はカクヨムコンに参加しておりますが、もう一作、


「落ちこぼれ気術士は転生して最強へと昇り詰める」


https://kakuyomu.jp/works/16817330651749314171


という作品も参加しております。

もしよろしければ、作品フォロー、★★★、応援コメントなどいただけるとありがたいです。


どうぞ宜しくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る