第549話 接敵
《豚肉の迷宮》が通称になるほどオークに遭遇しやすい迷宮だとはいえ、本来の名称は《群の迷宮》だ。
つまりオーク以外の魔物も普通にいる。
それにオークはあれでそこそこ強い魔物である。
最低ランクのノーマルオークでも、確実に倒すためにはF級ならパーティーが必要になるし、E級ならば一人では確実とは言えない。
それくらいの魔物だ。
上位のものになってくると、俺が
あの時はその上、かなりの特殊個体だったがゆえに、当時の雹菜でも叶わなかったほどの存在である。
流石に《豚肉の迷宮》では相当に深層にまで潜らなければそんなものは出現することはないけどな。
「なるほど、そんな風に出会ったんだ」
オーク話ついでに、雹菜のことを聞きたがったのでちょうどいいと出会いのことを話したら、初音が食いついて全て話すことになってしまった。
今思い出しても、あの時はかなり危険だったよな……。
その代わり得られたものは大きいが。
今の俺がこうして冒険者をやっていられるのは、全てがあの時の出会いからだから。
それに……。
「この剣……《豚鬼将軍の黒剣》もその時に手に入れたものだからな。あれは運命だったと今でも思うよ」
幅広の大剣を示しながらそう言うと、初音は、
「それ、めっちゃ重そう。私じゃ絶対に使えない」
と顔を顰める。
まぁ、腕力がなさそうな初音では振り回すのは厳しいだろうな。
ただ、それでも冒険者である以上は、この小柄さ、この華奢さでも一般人の大男と腕相撲をして倒せる程度の腕力はある。
冒険者は見かけによらないのだ。
「初音はこう言うのより、小回り利く武器の方が向いてるもんな……お、
見ると、木々の間を小さな猿によく似た魔物が行き交っているのが見える。
複数体いるのは、この迷宮の特徴だな。
この迷宮では魔物が一体で出ることは滅多にない。
あるとしたらイレギュラーの特殊個体であることが大半だ。
つまり相当な強敵となる。
かといって、グループで出現する魔物が安全ということもないので、意外に攻略するのが厳しい迷宮だと言われる。
それでも人の足が絶えないのは、オークが狩りやすいからだ。
外国では好んでオークを狩りに行く冒険者はこんなにたくさんはいないというから、日本人の食にかける執念というものが分かろうというものである。
「うん。あれなら私の方が向いてる。慎さんと美佳さんは……」
と尋ねると、二人は、
「俺たちは援護するよ。何せ、今回は初音のステータス上げが目的だからな」
「私も後ろから術飛ばすね。炎術は……危なそうだから、水術にしておこうかな……連携の訓練にもなるし」
そう言った。
そんな二人に頷いて、
「じゃあ、行ってくる」
と初音は小猿鬼に向かっていく。
気配が小さくなり、離れるとどこにいるのか集中しないとわからないようになった。
流石に斥候という感じだ。
小猿鬼たちも、最初の一匹が首を狩られるまで全く気づかないで枝にぶらぶらしていたが、すぐに戦闘体制になった。
それでも、やはりまだどこにいるのか把握できず、一匹ずつ確実に絶命させられていく。
「……これはすごいよな。俺たちじゃできない」
慎がそう呟いたが、まさにその通りだな、と思った。
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