第550話 オークの群れ
「そろそろオークが出てきてもいい頃なんだが」
慎が《群の迷宮》第三階層でそう呟く。
《群の迷宮》は確か二十階層あたりまでが踏破済みで、もちろんさらに深い階層も続いている。
基本的にそれなりの規模以上の迷宮の最奥まで到達した例はなく、A級でも今はまだ無理だと言われている。
S級ならば中規模迷宮であれば可能だろうと言われているが、彼らはよく言えば唯我独尊、悪く言えば自分勝手に生きているために、そのようなことはしない。
いくらS級でも一人で、というのは無理だろうが、だからと言って他人とつるむというのを極端に苦手にしている人々だからだ。
外国だと割と協力的なS級もいるようだが、日本のS級はな。
働きたくないみたいな感性のタイプばかりというか。
世のため人のためってタイプじゃないんだよな……。
なんでそんなことが許されているのかというと、S級ほどの力を持てば基本的に誰も逆らうことができないからだ。
軍隊とサシでやり合っても普通に勝てるような人々なのだ。
誰かが命令できるような存在じゃない。
そんなものの存在を許していたら社会が立ち行かなくなるじゃないか、と思うが、別に国が生み出したというわけではなく、迷宮と冒険者という特殊な存在が急に現れてしまって、半ば自然的に生まれてしまったものだからな。
こればかりはどうしようもない。
幸いなのは、日本のS級は人の命令で動くことはほぼないが、かといって誰かに意味なく危害を加えたりするようなこともないことだろう。
外国だとそれくらいの力を持っていると暴れ回ってそれこそ好き勝手している連中もいる。
そういうのはもう冒険者とかではなく、ただの犯罪者なのだが、国に匹敵する規模の配下を持ってしまっていることもあるので、扱いが難しい。
国なんてものが存在できるのは、背景になんらかの力があるからで、その力を個人が持ってしまうと色々と問題だということだな。
まぁそういうのもあり、各国は軍人に積極的に迷宮に入るようにさせて、国をしっかり存続させようとはしているのだが。
日本の自衛隊にだって、A級程度の実力者は何人かいる。
公表されている人物と、されてないものもいるらしいが、その辺りは国家機密なのだろうな。
そんなことを考えつつ、周囲を探していると、
「……お、オークいたぞ」
俺の視界にオークの姿が入ってくる。
しかし……。
「あれはどうだろうな。グループというより正しく群れだぜ。流石にあの規模はなぁ……」
慎がそう返した。
確かにそこにいるのは、数匹ではなく、三十匹ほどのオークだった。
森の中を少し切り開いて、木々で作られた囲いの中にいる。
粗末ながらも藁と木で作った家が数軒あり、そこをオークたちが行き交っているのだ。
いわゆる《砦》とか《集落》とか言われる存在だな。
オークやゴブリンなど、群れを作る魔物がたまに作ることがあるものだ。
ああいうところには比較的高位の個体もいるので、そういう意味でも注意しなければならない。
「どうする?」
慎が初音に尋ねた。
あくまでもここで行うのは初音のステータス上げと、経験値を積むことなので、彼女次第なところがある。
初音はその質問に少し考え込み、そして言った。
「みんなが補助してくれるのなら……やってみたい」
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