第194話 そして始まる
「で、私に勝ったら、静さんに何か鑑定させたいの?」
雹菜はストレートに賀東に尋ねた。
彼がここまでして雹菜との戦いをお膳立てしたのは、そこに理由があるとしか思えないからだ。
しかし、意外にも賀東は、
「……いや? まぁ、何もないわけじゃねぇが、もう別に構わんさ。正直それはついでだったしな。もちろん、うちに入ってもらえるならそうしたかったが、あの万物鑑定士様はお前んところに入ったんだ。いいだろ」
「……本当に? あんまりにもあっさりしすぎてて、怪しいんだけど」
「まぁ、気持ちは分かるが……事実だぞ。俺が鑑定させたかったものも知りたいなら後で教えてやるさ。どうせうちのギルドビルに魔導具取りにくるだろ?」
「選ばないとならないからね。今から楽しみだわ」
「……ちょっとは考えて選んでくれよ? いや、別に何選んでくれてもいいんだが……」
「考えておくわ」
「……失敗したかな。まぁ、いい。後は……俺たちの決着をつけるだけだな。オーディエンスのために盛り上げてやろうぜ」
賀東は、ガン、と地面にその手に持つ、巨大な大刀を叩きつける。
景気付けにということだろう。
武具を扱うにはあまりにも乱暴なやり方だが、そんなことをしてなお、彼の持っている大刀は一つも傷つくことはなかった。
それもそのはずで、その大刀は質量の化け物のような形をしていたからだ。
何かを切る、というつもりがない、叩き潰すとかそういう目的にしか使えないような厚さをしている。
「馬鹿みたいに大きな剣ね。それが話に聞く《
「おっ、よく知ってるな。先月手に入れたばかりなのに」
そう、賀東の持つ剣は、彼が最近、迷宮の深層で自ら手に入れた武器だ。
強力な階層主を相手に、一歩も引かずに戦い抜いたその凄まじさは、テレビでも伝えられたほどである。
「ニュースで見たわよ。大鬼を相手に一人で戦った結果の、レアドロップだってね」
「おう、そういうことだ。あいつはヤバかったな……だが、面白かったぜ。残念ながら、大勢で倒しても得られるのは小刀ばかりみたいだったが……まぁ、あの大鬼が持ってた刀だったしな。特別な品なんだろうさ」
「そんなもの人間に向けないで欲しいんだけど」
「そういうわけにもいかねぇだろ。A級がB級に負けたらいい笑い者だからなぁ……とはいえ雹奈、お前死ぬんじゃねぇぞ?」
ニヤリ、と笑うその顔は、もはや勝敗などどうでも良く、ただ楽しく戦いたいのだとそこに書いてあるようだった。
賀東の根底にあるのは、戦闘狂のそれだ。
ギルドを率いるものらしく、普段はそれを隠しているが、こういう全力を出しても許されるような場ではこうしてその本性が覗く。
まぁ、そうは言っても会場を壊すわけにはいかないから、そこも考えて戦うだろうが……。
「それはこっちの台詞よ。賀東さんがモンスターならともかく、人間なら致命傷を与えるくらい、私の細腕でもできるんだから」
「……細腕ぇ……? いや、お前、今腕力の数値いくつだよ……」
「……殺すわ」
「藪蛇だったか……」
『さぁ、そろそろ二人の準備も整ったようだ。観客の皆さんを守る結界も強く張り直されたとの報告もありました! これで心置きなく、戦ってもらえるはずだ! では……白宮雹奈VS賀東修治のエキシビジョンマッチ……今ここに、始め!!」
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