第193話 賀東の為人

『……さぁ、盛り上がってまいりました! なんとここで見られるのは、新進気鋭の美人B級冒険者、白宮雹菜はくなVS賀東修司! こんなカードは中々ないどころま、まずあり得ないと言っていい! 何せ、B級以上が直接ぶつかり合う闘技大会は、年一度の大闘技大会のみ! しかも、白宮雹菜の名がその大会に上がることは今まで一度もなかったのだから! 彼女が公式戦において最後に出場したのは三年前……C級の時以来!! その時にも圧倒的な実力で周囲を黙らせた少女が、今日、どれだけの成長を見せてくれるか、見ものだ!』


 死ぬほど煽っているのは、案の定、司会かつ解説のアドベンチャラー雷豪だった。

 本来ならすでに彼の仕事は終わっているはずで、閉会式を待たずに帰っていてもおかしくないのだが、まだいたようだ。

 そして急遽頼まれたか、もしくは自主的にこの試合の司会を引き受けている。

 多分、自主的にだろうな、と雹菜はステージ上で笑った。


「……おい、雹菜。随分とふっかけてくれたじゃねぇか」


 先ほどまでの丁寧な口調とは異なる、荒々しい口調で雹菜に獰猛な笑みを向けてきたのは、賀東修司である。

 ふっかけた、とは報酬のことだろう。

 それに加えて、なんとなく意図を察してあえて断ったことも含むだろう。

 しかし、予想に反したことをされた割には、賀東の目の中には怒りなどは感じられなかった。

 むしろ、面白い、と思っているようだった。

 まぁ、この男はこういう男だと知っている。

 手下というか、ギルドメンバーも問題児揃いなので色々と誤解されやすいところもあるが、その理由もある程度彼を知っている人間には分かっている。

 だからこそ、雹菜はあえて試合は受けたのだ。

 見た目通りの粗野なだけの男であれば、それすらも断っていた。

 そこまで考えてつつ、雹菜は言葉を返す。


「それはこっちの台詞ですよ。というか、こんな試合を持ちかけるなんて、突然過ぎません? 別に何か相談事があるなら、直接ギルドに持って来ればよかったじゃないですか」


 賀東はA級冒険者であり、大規模ギルドの代表だ。

 何か、仕事をして欲しいのであれば、《無色の団》に依頼すれば良かっただろう、ということだ。

 しかし賀東は言う。


「それじゃあ面白くねぇしな……あぁ、そういや、うちのメンバーが迷惑かけたな。粗相はしないように色々言い含めておいたんだけどよ、ああいう奴らは中々な」


 これは、静のところに来たあの中年冒険者のことを言っていると察した雹奈は言う。


「特に手荒なことはしなかったみたいだけど、鑑定士のところに来るにしては経歴に問題がありすぎたみたいね」


「そこのところは俺も失敗だったと思ってる。一般的な鑑定士が出来ることは、ステータスの数値とスキルがいくつか見られる、くらいだからな。万物鑑定士って言っても、称号までは見られないと思ってたんだよ。あいつの称号マジで碌でもねぇからな……わかってたら俺が直で行ったよ」


「だったらああいう人を雇うのはやめておけばいいのに」


「分かってるだろ、そういうわけにはいかねぇって。一般人の碌でもないのなら、まぁ捕まえて刑務所にぶち込んどきゃそれでいいが、冒険者となるとなぁ。すぐ脱獄するからな。それを止める手段も少ない。高位冒険者はほぼ公務員になんかならねぇし、一般人の見張りなんて冒険者にとっては意味がねぇ。俺みたいなのが、直接目の届くところで見てるしかねぇのさ」


 これが、賀東のところにああいうの、が集まる理由だった。

 あえて集めているとも言える。

 冒険者としての適性に目覚める前も、そういう悪い人間に好かれやすいオーラでも放っているのか、かなりの規模の暴走族組織の頭領だったらしい。

 冒険者としての適性に目覚めた後も似たような人間に好かれ、ギルドを創り、大規模ギルドにまでしたわけだが、彼のギルドに所属した後は、そういった人間は悪さをしなくなった。

 なぜか。

 それは、賀東自ら教育するからだ。

 強力な規律はもちろん、鉄拳制裁も厭わない厳しいものだと言うが、それでも賀東の元からそう言う者たちは離れない。

 結果としての、大規模ギルド、というわけだ。

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