第144話 勘違い?
それから周囲のパラライズゴブリンとスライムを一体一体確実に倒していき、周囲に魔物は完全にいなくなった。
「……うーん、まぁこんなもんかな? でもまだまだ遅いなぁ……」
雹菜ならこの五分の一の時間で全ての魔物を倒しきるだろう。
それも、スキルの助けなくだ。
今では彼女とのステータス差はそれほど大きくないし、器用と精神に至っては完全に上回っているのに生まれるその差は、いわゆる経験というものだろう。
ともあれ……。
「おい、大丈夫か?」
男に尋ねると、彼は呆けたような顔で俺を見つめていて、
「……聞いてるのか?」
と改めて尋ねると、はっとして、
「あ、あぁ……悪い。いや、悪かった……です」
と急に敬語になった。
「なんだよそれ、気持ち悪いな」
地上ではあれだけ居丈高だったのに、この変わりようである。
そう言いたくなるのも当然だった。
男はしかし、そんな風に言われてもそれ以上態度を悪くすることなく、
「いや、だって……こんなに強いなんて、思ってもみなかったので……」
「強い? だからたいしたこと……ってまぁそれはいいか。それより強い弱いで人に対する態度変えるのやめろよ……あんた、ベテランなんだろ。敬語もいらない」
「……冒険者は、力が全てだってのに、そんな……」
「いいから」
「……分かった。おっと、そうだ。
そこで男は倒れていた仲間の方を見る。
するとこそこには、すでに起き上がっている男がいた。
彼の名が、巧、なのだろう。
「……ってぇ……でも、なんとか動くな。助けてくれてすまなかった。ええと、あんたは……」
「樹だよ」
「樹と……」
「創だ」
「創か。二人が来なきゃ、俺たちはここで死んでた。そいつが言ったかもしれないが、何でも言うことを聞くよ」
と、巧が言った。
それで俺はふと思いついて言う。
「じゃあ、今日みたいなのは無しにしてくれ。あんたたち二人ともだ。それでいいことにする」
「今日みたいって……あぁ、カズが絡んでたことか。あれも悪かったな……どうにも荒れてて止めてもきかなくて」
「カズってのがあんたの名前か?」
横を見て、尋ねると、
「和夫ってんだよ。あだ名だ」
「そうか。荒れてたって……」
これには巧の方が答える。
「俺たちはすでに三年もF級だからな。今回落ちたらギルドから首になるかも知れねぇって、昨日言われててよ。で、まぁ……あんな馬鹿なことを。理由があるから許されるってでもないし、あの場で止めなかった俺も問題だとは分かってるから、どうって話でもないが、一応な」
「……ギルドってそんな厳しいのか?」
少なくともうちのギルドならそういうことはなさそうだ。
もしも俺がずっとF級ならどうする、みたいな話を初期の方にした覚えがあるが、それならそれで地道にやってけばいいわよと雹菜は言っていた。
俺の言葉に巧は、
「まぁ……中小ギルドでも大体そんなもんだな。大規模ギルドになると確実に首だ。零細だとまた話は違うが……」
「あぁ、なるほど」
考えてみれば、うちはまだ零細だから……そうなると、いわゆるビジネスライクな関係ではなく、家族寄りの関係になってるから、すぐにクビだなんだという話にはなりにくいってことだな。
「ともあれ、理由は分かったよ。人間なんだし、たまに荒れることもあるだろうさ。特に冒険者なんて、多少血の気が多くないとやってけないのは間違いないし……でも、これからは無しだ。それでいいか?」
改めて俺が尋ねると、カズと巧の二人は真剣な表情になり、
「……命の恩人の言うことだ。否とは言えねぇよ……そっちの嬢ちゃんも、本当に悪かった」
「俺も同感だ。この通り、謝る。嬢ちゃん」
と言った。
しかしここで、俺と樹は顔を見合わせる。
「……なぁ、二人とも」
「あ?」
「なんだ?」
「樹って男だぞ」
「えっ!?」
二人そろって目を見開いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます