第145話 再出発
「……だって、どう見たって……」
「そうだよ、その顔立ちとか長いまつ毛とか、華奢な手足とかさぁ……どう見ても女子じゃね……?」
カズと巧は二人揃ってそんなことを言っている。
「……なんかちょっとキモチワルイ」
樹が引き気味にそう言った。
確かに勢いが……特に巧の方が若干問題あるな。
巧は特段、樹に絡みはしなかった方だが……。
「……あぁ、悪い。こいつドルオタなんだよな……そういう素質のありそうな女子を見るとなんかこう、興奮してしまうんだ……」
「変わった性癖を持ってるのな……」
カズが申し訳なさそうにそう言ったので、俺はそう答えるしかなかった。
それから、ふと思いついて、
「……っていうか、樹を女の子だと思ってたってことは、もしかして連れて行こうとしてたのって……」
なんかいかがわしいアレなのか?
そう思って尋ねるが、これについては二人とも大きく手を横に振って、
「いやいや、違ぇって! 確かにお前らから見たら腐ってたように見えてただろうし、そう思われても当然だと思うが……そんなつもりはサラサラなかった! 単純に、戦力として入れようと思っただけだ」
「俺は可愛い女の子大好きだが、そういう意味では手を出したりはしないぞ。遠くからちょっとだけ見るだけだ。ライブとかしてくれると嬉しいが……」
「……ライブも何も、僕はデビューしてないからね……」
樹がチラリと視線を向けてきた巧に呆れたような視線を返した。
巧は肩をすくめて、
「残念だ。本当に残念だ……まぁ、それはいいか」
と割り切ったような顔で元の冷静そうな表情に戻る。
「切り替えが早いな……逆に怖い」
「オタクとはそういうものでなければ。それより、まだ試験中だ。先に向かわなければならないが……当然だが、二人とも先に行っていいぞ」
「っていうと?」
俺が首を傾げると、巧は少し困惑した表情で、
「いや、先に進むだろう? どっちのパーティーが先に行くか、問題になるじゃないか」
そう言った。
続けてカズも、
「俺たちは本来ここで終わりだったはずだしな。助けてもらっておいて、先に行くなんてことは言えねぇ。まぁ、まだ諦めるつもりもないから、頑張るが……ともあれお前たちが先だ。だろ?」
と殊勝なことを言う。
何かの罠か、とちょっとだけ思わなくもないが、別にここから先に進んでいたわけでもなければ、事前に仕込めた訳でもないことははっきりしている。
つまり、純然たる好意だ。
だが、そもそも……。
「ねぇ、一緒に行けばいいんじゃないの? 別に禁止されてないでしょ」
樹が思い付いたようにそう言った。
これにカズが、
「いや……俺たちと一緒なんて嫌だろ? 俺が言うのもなんだけどよ」
と常識だろという顔で言ったが、樹は、
「さっきまではそうだったけど、こうして話してみると別にそんな悪い人たちじゃないみたいだし。それにパーティー組めなかったの、僕らと関わったせいでしょ? 埋め合わせっていうか……」
「お前……お人好し過ぎるだろ」
と呆れた顔のカズだった。
ただ、俺としては樹と同感で、
「俺も別に構わない。迷宮内部でパーティー組むなとは言われてないからな。それにこんなこと、冒険者ならよくあるだろ」
「だからなぁ……はぁ。言っても無駄そうだな。分かったよ、頼めるなら俺たちもありがたい。巧もいいよな?」
「そりゃ当然だ。だが、俺たちの実力はもう見たろ? 二人で行った方が早いと思うぞ?」
巧がそう言うが、
「さっきのは相手が悪かっただろ? パラライズゴブリンは素早いし、パラライズスライムは鎧の隙間に入ってくるからな。だが、盾としては活躍できる……だろ?」
これには二人とも納得したらしい。
「なるほど、タンクをやれってか。確かにお前ら二人はそんな感じじゃないな。よし、いいだろう。任せておけ」
「少なくとも俺たちが生きてるうちは、お前らを守り切ってやるぞ」
そう言った。
「じゃあ、よろしく頼む」
「僕もね!」
俺と樹がそう言って握手を求めると、カズと巧もその手をぎゅっと握ったのだった。
それから、カズと巧が先を歩き始める。
盾役としての位置どりだとそうなる。
その後ろが、俺、最後尾が樹だが、樹が、俺の耳元に、
「……創は、僕が男の子だと思ってるんだ?」
「え?」
振り返ると、意味深に笑う樹がいて、冗談だよな?という目で樹を見るが、
「しーらないっ」
と言って、俺の質問には答えなかった。
……どっちだ?
俺にはわからない……。
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