第445話 ゴブリンキング

「……そう、だな。他の三つと比べると、《ゴブリン《キング》》だけ毛色が違うし、これだけまず試してみるか……戻れない、ってことはないよな……?」


 俺が少し不安げにそう呟くと、雹菜は考え込む。


「はっきりとは断言できないのが怖いところよね……でも、ゴブリンのジャドが他のゴブリン種族になっても戻れているのだし、それを考えると大丈夫ではないかしら?」


「言われてみると、そうか。まぁあまり心配しすぎてもしょうがないしな。それに、そのうち試さないと行けないわけだし、ここは度胸だ……ポチッとな」


 そして、《ステータスプレート》の該当部分をタップすると、俺の周囲が黒い闇に包まれる。

 それから、ゴキゴキと体が作り替えられるかのように関節やら筋肉やらが俺の意志とは関係なく動き出す。

 ただ、思ったよりも痛くないというか、何も感じない。 

 確かに体のパーツが動いていることは理解できるが、それだけだ。

 むしろ心地よさすらあった。

 これは《種族選択》に忌避感を覚えさせないための仕様なのかもしれないな。

 毎回激痛が走るようでは、いずれ誰もやらなくなってしまうだろうし。

 それにしても……少し長いか?

 他のみんなが《種族選択》したときよりも、時間がかかっている気がするな。

 まぁいいか……流石に永遠にこのままということもあるまいし。

 そして……。


 ぱあっ、と闇が晴れて視界が広がった。

 見れば、いつもよりも視線が低いことがまず、分かる。

 うーん、雹菜の胸元くらいの視線だな。

 ということはつまり、俺は小さくなったと言うことだ。

 ジャドとほぼ同じだし……手を挙げて見てみると、その色は緑である。

 これもジャドと変わらないか。

 やはりゴブリンキングとは、ノーマルゴブリンとさして変わらない見た目らしかった。

 キングというからには超巨大になるとか、見るからに強そうになるパターンもありそうだったが、一周回って見た目は矮小になる、みたいなのもアリではある。

 俺的にはそういうのは好きだな……。

 能力的にはどうか、と思うが、体からかなりの力が漲るのを感じる。

 ノーマルゴブリン程度のステータスではない、というのははっきり分かるな。

 

「おぉ、その姿は……。確かにゴブリンキングだな」


 ジャドがそう話しかけてくる。


「そうなのか?」


 俺が尋ねると、ジャドは言う。


「うむ。あくまでも俺の記憶の中でだが……ゴブリンジェネラルまでは、ゴブリンの進化は巨大になったり角が生えたりと見た目に出るのだが、キングだけは違う。全てのゴブリンの祖であり、王でもあるためか、ノーマルゴブリンまず変わらない見た目なのだ。持つ力はその比ではないがな」


「なるほど……予想通りというわけだ。というか……あれ? ジャド、俺が話していることが分かるのか?」


 普通に会話していて、俺はふと気づく。

 黒田さんを挟まずに会話できていることに。

 ジャドの言葉は元々分かっていたからそこに違和感はないが、俺の言葉に直接返答されていることはおかしかった。

 これのジャドは答える。


「うむ、分かる。というか普通にゴブリン語を話しているぞ、創は。自覚がないのか?」


「えっ……? 本当か。いや、本当だな……日本語を忘れたわけでは……ないみたいだな」

  

 何も意識しないで話していると、言葉がゴブリン語に変換されていることに気づく。

 しかし、意識して日本語を喋ろうとすると普通に話せるようだ。

 それにとりあえず安心した。

 ただ、もしかしてスキルを覚えたか、と思って《ステータスプレート》を見てみるも、それは特になさそうで、がっかりする。

 ゴブリンになったから、種族の固有の言語として使える、みたいな感じだろうか、と考えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る