第116話 紬と美柑の戦い方
ただ、カッパ以上に面白かったというか、興味深いのは紬と美柑さんの戦い方だった。
彼女たちの実力については、Cランクというところから見ても疑いようがないのは勿論だが、実際にどのように戦うのか、については俺は知らなかった。
一緒に入った《転職の塔》でも、結局のところ俺は彼女らとは引き離されてしまって、総理との戦闘だって、見物する前には終わっていたわけだしな。
つまり、一応、今が初めて見る彼女たちの戦い、ということになるのだが……。
「……紬の身に纏っているあれはなんだ? いや、身に纏ってる、という表現であってるのかな」
俺がそう呟いたのは、戦う紬の体を包むように、先ほどまでなかったものが出現しているからだ。
いや、より厳密に表現するなら、その体の数ミリから数センチ上に浮かぶような形で、半透明の緑がかった鎧が出現していると言うのが正しい。
また、手には短剣が握られているが、これもまた半透明で透けている。
あれらは一体……そう思った俺に、雹菜が説明する。
「あれこそ、紬の力……スキル《精霊術》の力ね。《炎術》なんかと同じように上級中級下級に別れている、らしいのだけど、流石に細かいところは公開してないから、正確なところは言えないけど……あの半透明の緑がかった、浮いているように見える鎧は、《精霊の鎧》
というもので、短剣は《精霊の短剣》だと言っていたわ」
「精霊の……やっぱり精霊力由来なんだよな?」
「ええ、紬が言うには、精霊力は精霊の力を借りることによって力を発揮できるもので……魔力と違って、精霊に与える餌みたいなものなんだって。で、それを受け取ってくれた精霊は、紬に力を貸してくれる……」
「へぇ、面白いな。ただ、そうなると渡してから発動までラグとかありそうな気がするが」
「使用する術によるみたいだけど、あの鎧と剣については、出現させた後は精霊力が尽きるまであのまま戦ってられるみたいだから、そういう部分で便利で使ってるんでしょうね」
「なるほど……」
俺たちの話を聞いていた美佳が、
「でも、紬ちゃんって思った以上に動けるのね。精霊術士の職業だって言ってたから、もっとこう、術士系と同じように後衛系かなと思ってたんだけど」
続けて慎も、
「あの動きは戦士系の職業と比べても遜色がないな……万能系に近い気がする」
つまりは、慎に近い、というわけだ。
慎は前衛も後衛も可能で、スキルもどちらのタイプも覚えられる万能型だ。
紬も同じ感じに思えるというわけだろう。
これに雹菜も頷いて、
「その理解で正しいわ。だからこそ、紬は強いの。ただ、純粋な前衛となると、依城さんの方が上ね。見てて分かると思うけど」
そう言って、雹菜は美柑さんの方に視線をずらす。
紬がカッパの放つ水流ジェットを鎧や盾で弾いたりしながら、短剣で少しずつ削っていくような戦法をとっているのに対して、美柑さんはより攻撃的だった。
狂戦士的、と言っても良いかもしれない。
普通の人間のような動きではなく、四つ足で走ったり、指から爪を長く伸ばして切りつけたり、牙で噛みついたりともうめちゃくちゃだ。
相手の攻撃も本当に紙一重、という言葉が嘘ではないと言える程度のギリギリで避けている。
恐ろしくないのか、と思ってしまうが、彼女の瞳の中に覗くのはただ、闘争心のみであった。
「……たしか、獣剣士、だったか。剣士……って戦い方に見えないけど」
確かに美柑さんの腰には剣が下げられているが、それがほぼ使われていない。
獣部分はなるほどそうだろう、という感じだが、言うほど剣士か?という気もした。
これに雹菜は言う。
「依城さんが言うには、戦っている最中はどうにも感情が抑えられなくて、ああいう感じになってしまうらしいわよ。ただ、獣剣士になってから覚えたスキルにはしっかりと、剣を使ったものもあるみたいだから……多分、まだ力に振り回されてる、って感じじゃないかしら? 《白王の静森》に《狂戦士》って職業取った人がいるけど、最初は仲間すら攻撃する感じだったみたいだし、それに似てるのかも」
「物騒な職業だな……」
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