第40話 曖昧な約束

「それってどういう……」


 ことですか、とまで尋ねかけたところで、守岡がふっと外の方を見て、


「おっと、そろそろ雹菜が戻ってくるみたいだ。今の話、俺がしたって言うなよ? まぁ、テレビで見たって言えば問題ないからな」


「なんで俺にこんな話を?」


「お前は雹菜のいい友達になってくれそうだからな。あいつのこと、見守って欲しくてよ」


 見守るって、随分な買い被りのように思えた。

 何せ、彼女と俺には大きなランクに開きがある。

 むしろ俺の方が見守られる側だ。

 今だって、ずっと頼りきりだしな。

 そんな俺の気持ちが顔に出ていたのか、守岡は、


「別に腕っ節で守れ、なんて言わねぇよ。あいつの実力は俺もよく知ってるし、そもそも、今は男だから女を守れなんて時代でもねぇしなぁ……」


「男としては、言いたくなりますけどね」


「まぁな。ただ、そういう機会が来たら言わずとも行動するってのもまたカッコいい気がするぞ」


「それは……確かに。でもそんな機会が来るとは思えないですけど」


 少なくとも雹菜については。

 せいぜい共闘するくらいかな。

 まぁ、B級冒険者とそれくらいのことができれば十分か。

 とりあえずはその辺りを目的にこれから鍛えていきたいところである。


「気持ちの話だよ」


「わかりました……でも、雹菜の友達っていうなら、守岡さんについても雹菜はそう言ってましたよ」


「俺を?……なるほど。まぁ、俺もそんな感覚だが、歳が歳だからな。同年代の方が、何かと一緒にやれることも多いだろうさ……頼んだぞ」


「……はい」


 曖昧な願いだ。

 でも、言わんとすることは理解できたが故の頷きだった。

 要は、この人は雹菜が心配なのだろうな。

 腕っ節もしっかりしているし、考えも真面目で、B級冒険者としての実績もちゃんとある。

 ただ、どこかに危なかっかしい部分もあるような。

 そんなところだろうか。

 俺のような高校生が支え切れるかというと微妙な話だが、一緒に悩んだりするくらいは無理じゃない。

 友人として、それくらいはやれるように頑張ろうと思ったのだった。


 そして、ガチャリ、と店の扉が開き、雹菜が戻ってくる。


「……あら? どうかしたのかしら」


 と、雹菜が首を傾げる。


「何がだ?」


 と俺が尋ねると、


「うーん? うまく言えないけど、なんだか空気が柔らかくなったような気がして。仲良くなったの、二人とも」


「いや、そういうわけじゃ……ないこともない、のかな?」


「仲良くなっただろうが、創。お前も今日から俺の友達だぜ」


 豪快に笑って、守岡がそう言った。 

 五十近い年齢のおっさんにそう言われると、いいのか、という気がしてくるが……なんだかこの人は、そういう壁を感じさせないような独特な空気感があるのは確かだ。

 

「まぁ、そういうことなら……よろしくお願いします」


「敬語もいらねぇぞ? 友達なんだから」


「逆に話しにくいですよ。雹菜だって守岡さんには敬語じゃないですか」


「あー、まぁ、そうか」


 俺と守岡が気やすい様子でそう会話しているのを聞いていた雹菜が少し驚いた様子で、


「本当に仲良くなったのね……守岡さん、気難しい人、で有名なのに」


「えっ、そうなのか?」


「いえ、ちょっと言い過ぎかも。なんていうか……読めない人、みたいな?」


「あー……それはわかる気がする……」


 俺と雹菜が頷き合っていると、守岡は、


「おい、人の目の前でなんてこと言いやがる。俺はこれでも強くて優しい冒険者として名が通ってるんだぞ」


 とふざけて言うが、雹菜はそれに苦笑しながら、


「間違いじゃないですけど、厳しい、もちょっと入りますよね」


 守岡も心当たりがあるのか、


「あんまりおかしな奴には、それなりの対応をするだけさ」


「分かってますよ……あっ、そうそう。創の体調、どうなのかって……」


 そこで本題を思い出したのか、雹菜が尋ねると、守岡は言う。


「それはすでに本人に伝えたが、特に問題はねぇよ。色々とおかしなところはあるが……まぁ、何かあったらまたここに来い。二人できても、創一人でも構わないからな」


「お願いできるとありがたいです」


 雹菜が言ったので、俺もそれに続いて、


「どうぞよろしくお願いします」


 と頭を下げたのだった。

 守岡は頷いて、


「おう、任されたぜ」


 そう言ったのだった。

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