第41話 帰宅

 とりあえず異常はないということで、俺たちはそのまま別れることにした。

 俺は勿論、特段買い物とかもないから直帰だ。

 けれど雹菜の方は家にというわけではなく、ギルド関係の仕事があるようで、


「……別に仕事を溜め込んでるとか、ってわけじゃないのよ? ちょっとずつ片付けていかないと、後々困るから……」


 と言い訳っぽく言う。


「いや、別に何も言ってないだろ……」


「目が! 目が言ってました! あぁ、どうせこいつ片付けられない女なんだろうなって、その目が」


「言いがかりだから。というか、むしろきっちりした性格だと思ってるくらいだよ」


 これは嘘ではない。

 全体的にしっかりした印象だし、容姿も単純に生まれ持ったものだけでなんとかしていると言うより、しっかりと整えられている感じがするからだ。

 まぁ、俺には女性の身だしなみなんてわかるはずがないので、ただの印象の話だけど。

 そんなことを雹菜に言うと、彼女は少し機嫌を直して、


「そ、そう? それならいいのよ……あっ、そろそろ本当にまずそう。私、行くわね! また連絡するから。それと就職のこともあんまり心配しないで。創が卒業するまでには、私がなんとかするから」


 壁にかけてある時計が目に入ったようで、慌ててそう言うと急いでその場から消えていった。


「ちょっ! なんとかするって……あぁ、行っちゃったか……」


 いきなりの気になる発言にその意図を訊ねようとし、けれど失敗して一人残された俺の方は……。


「ま、後でメッセ送ってきけばいいか……俺は帰りますかね……」

 

 そんなことを呟きつつ、駅の改札に向かう。

 迷宮が駅の中にあるから、こう言う時便利でいいんだよな。

 どうして迷宮なんてものがこの世に出来たのかはまるで分からないが、妙な利便性があるあたり、これをこの世界に出現させた神だか何かからは変な人間味を感じなくもない。

 ただの気のせいかもしれないが。


 *****


「あっ、お兄ちゃん。お帰りー。どうだった? 迷宮は」


 家に戻ると、学校から帰ってきたらしい佳織がアイスを頬張りながら玄関までやってきてそう尋ねてきた。

 今日は普通に平日なわけで、彼女は普通に登校日なのだった。

 俺の方はといえば、冒険者学校の三年というのは登校日もそれほど多くない。

 特に今の時期は就活最盛期なので、むしろ休日が多くなっている。

 勿論、家で寝転がっててもいいぞ、的なことではなく、その休日に就活をしろという意図だが。

 同級生たちは今日もギルドを訪問したり、集団面接を受けたり、いろいろなことをやっているだろう。

 その意味では、俺はほぼサボりみたいなものだが、まぁ、自分の冒険者としての能力を磨いているわけで、就職のために頑張っていると強弁できなくもない。

 今のところは、いくら磨こうが雹菜以外に話せないのがアレだが……。

 まぁ雹菜との別れ際の言葉を考えるに、何か策を練ってくれているようだし、なんとかなるだろう。

 彼女は大規模ギルドに所属する高位冒険者。

 しかも姉は代表冒険者まで勤めているのだ。

 その権力とコネには計り知れないものがある……ってなんか軽いヒモ状態で情けなくなってくるが、今のところはな、仕方がない。

 

 そんなことを考えながら、俺は佳織に返答する。


「まぁ、そこそこ楽しかったよ」


「えっ、そうなの? でも流石に魔物は倒せなかったでしょ? スキルもないんだし」


「いや、実のところ、スキルなしでも結構やれてな。ほら」


 そう言って、俺はゴブリンの魔石を佳織に見せる。

 俺の能力……スキルを通さずスキルを使えること、は妹である佳織にもとりあえず内緒だが、これくらいのことは言ってもいいだろう。

 実際、最初の一匹は本当に何のスキルもなく倒したからな。

 死ぬほど苦戦したけれど。

 佳織は魔石を見て驚いた表情で、


「すごーい。これ、なんの魔石?」


「ゴブリンだよ。今の俺に倒せるのは、それが精一杯だ」


 若干、恥ずかしくなってそう言ったが、佳織は、


「最初はみんなゴブリン狩りとかから始めるんでしょ? こっからだよ、お兄ちゃん!」


 と言ってくれる。


「そうだといいんだけどなぁ……」


 そんな話をしていると、ふと、リビングの方から、


「佳織! 今、テレビで……あっ、創もいたのね! あなたも来て!」


 と母さんが血相を変えた様子でそんなことを言ってきた。

 何かあったのだろうか?

 分からなくて佳織と顔を見合わせたが、すぐにリビングに向かった。

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