第42話 記者会見

 一体何が……。

 そう思ってリビングに入り、ついているテレビを見ると、それはよく見る景色というか、いわゆる政治家がよく会見をしている会場が映っていた。

 まだ誰もその場にはいないようだが、記者たちの頭やら、大量に並べられたマイクなどがある。

 画面の端っこに、首相官邸、と書いてあるな……。

 

「これがどうしたんだ、母さん」


 俺がそう尋ねると、母は言う。


「なんだか、急に会見をするって緊急速報がさっき出て、全部のチャンネルがこの会見になったのよ。冒険者に関わる、重要な会見だっていうから、あんた見た方がいいんじゃないかって思って」


「へぇ……チャンネル全部これなのか、どれ」


 ぴこぴこリモコンを弄ってあらゆる民放や公共放送にチャンネルを変えてみるも、確かにほぼ全てがこれだ。

 一局だけ、アニメを放送し続けてるところがあったが、そこはもうお家芸みたいな感じだから気にしないことにしよう。

 

「あっ、お兄ちゃん。誰か出てくるよ」


 佳織もソファに座りつつ見てて、そんなことを言う。

 彼女の言う通り、画面の端から人が現れる。

 フラッシュがいくつも焚かれて、眩しい上に五月蝿い。

 しかし、その入ってきた人物……今の政権の官房長官である女性、五十嵐京いがらしみやこは、大して眩しそうでもなく会見台についた。

 そして、手に持っていたファイルを置き、深く頭を下げた後、話し始めた。


「本日はお集まりいただきありがとうございます。さて、早速ですが、皆様にお伝えしなければならないことがございます。まず、我が国に、《預言オラクル》持ちの冒険者が複数人いることはご存知かと思いますが……」


 ここで記者から質問が飛ぶ。


「しかし人数や本名については非公開ですよね! 公開すると決めたと言うことですか!?」


 だが、五十嵐はその記者に鋭い視線を向け、


「……質疑応答の時間はお話が終わり次第、設けますので、静粛にお願いいたします。では続きですが、彼らが今回、一斉に一つの預言を受けました。その内容について、広く国民の皆様にお伝えすべきと考え、本日緊急会見を開くこととなりました……」


 《預言》のスキルは世界でも極めて貴重なスキルと言われていて、それぞれの国にそれを持っている人物は片手で数えられるほどだ、と言われている。

 日本には複数いることは知られているのだが、先ほどの記者が言った通り、その身分については明かされていない。

 あまりにも貴重かつ有用であるために、狙われるからだ。

 何ができるのか、というと、迷宮に関連する様々な事柄について《預言》という形で情報を受け取ることが出来るのだ。

 つまり、迷宮の取り扱い説明書的な立ち位置にある。

 ただ、常にいくらでも、と言うわけではなく、それなりの制限もあるらしいのだが、その詳しいところは機密とされている。

 けれど、彼らの伝えてきた情報が正しかったことは、迷宮が出現してから今まで、しっかりと社会が存在し続けられていることが証明しているだろう。

 彼らがいなければ、多分、人類はろくに対処も出来ず人口の九割が死滅していたか、全滅まであり得たとまで言われているほどだ。

 そんな彼らが、同時になんらかの《預言》を受けたと言うのはそれだけで大きなニュースだろう。

 しかも、こんな会見を急に開くほどの……。

 俺は固唾を飲んで、五十嵐の言葉の続きを待った。

 そして、彼女は言う。


「《預言》持ちが言うには、近いうち《ステータスプレート》と言うものが有効化される、とのことです。また、冒険者に関わる幾つかの権限も解放される、ということでした」


 そこで、フラッシュが今までにないくらい、大量に焚かれる。

 ただし、彼女の言葉の意味は、まだ誰にも理解できていないようで、記者たちは後で質疑応答、と言われたのにも関わらず、口々に質問を発する。


「《ステータスプレート》とは一体なんなのでしょうか!?」「冒険者に関わる幾つかの権限とは!?」「近いうちとはいつ頃に!?」


 そんな内容だ。

 けれど、五十嵐は意外なことにこれらの質問に苦笑して答えた。


「……それについては、私たちの方でもはっきりとは分かっていないのです。ですが、これらの《預言》については、世界各国で同様のものが伝えられていることは確認しております。今、世界中で同じ時間に発表がなされているはずです。ですが、やはり誰もまだ細かな内容は理解できておりません。冒険者に関わる能力なのだとは思われますが……かつてスキルが人に与えられた時のように、与えられたその時に、大まかな意味が理解できる、そのようなものであろうと考えております」

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