第43話 出現

 結局、その日の会見での発表はそれだけだった。

 色々と記者が質問していたが、その全てを五十嵐官房長官は軽くかわして終わった。

 というか、本当にまだ何も分かっていない、というのが正直なところのようで、記者も途中からそれを理解して諦めていた。

 ただ……少しだけ気になる表情だったというか、質疑応答の全てが終わった後、五十嵐官房長官はほっとしたような感じがしていた。

 重要な会見を終えられた安堵でそうだったのかもしれないが……何かあったんじゃないか、そんな気がした。

 もうちょっと突っ込め記者たちよ、と思ってしまったが、カメラが五十嵐官房長官がはけていくところをズームした結果見えた表情だったので、記者たちには確認できなかったのかもしれない。

 実際、スタジオに帰ってきた直後、アナウンサーも、

「最後の表情、少し気になりますが……」

 とか言ってたしな。

 ほんと、なんだったんだろう?

 まぁ、考えてもわからない事だが。


「うーん、お兄ちゃん。《ステータスプレート》ってなんなんだろ?」


 佳織がテレビをぼんやりと見ながら、尋ねてくる。


「そんなの俺に分かるわけないだろ……というか政府もまだ分かってないみたいだし。言ってた通り、実際にそれが有効化されないと誰にもわからないんじゃないか」


「そっか。でもなんかゲームっぽいよね?」


「まぁ、それはな。そこから考えると、やっぱりステータスが表示されるプレートって事なんだろうが……」


「楽しみだね! もし有効化したら、見せてくれる?」


「そもそも他人に見せられるものなのかどうかからして分からないだろ……それに、そういうのは誰にも見せない方がいいんじゃないか?」


「確かにそれもそうかも。でも私だけには……」


「お前口が軽いからな……ちょっと遠慮するわ」


「あっ、ひどーい!」


「ははは」


 *****


 ーーこんこん、と首相官邸、内閣総理大臣、平賀慶次の執務室の扉がノックされる。


「入ってくれ」


 平賀がそう言うと、


「失礼します」


 との声とともに、一人の女性が入ってくる。

 官房長官である五十嵐京だった。

 その顔に浮かぶ表情を見て、平賀は労うように、


「ご苦労だったな……上手くやったと思うぞ」


 と告げる。

 五十嵐もこれに頷いて、


「ええ、なんとか聞かれずに済みました。やはり、発表した内容にインパクトがあるのが良かったのでしょう」


「それはな。《ステータスプレート》に冒険者の権限と来たもんだ。それが一体どういうものなのか、細かく聞きたくなるだろうさ。そして、それ以外に何か預言はなかったのか、とは中々ならない。まぁ、時間も緊急だからと短めに取っていたのも良かっただろう」


 そう、今回の会見で重要だったのは、聞かれないこと、にあった。

 何についてかというと、《オリジン》についてだ。

 他の内容……《ステータスプレート》にしろ、冒険者に関わる権限にしろ、これらについてはなんとなく想像がつくものだ。

 加えて、いずれもおそらく、広く冒険者全員が関われるようなものだろうと推測がつく。

 けれど《オリジン》については違う。

 《ボード》の書き方からして、明らかに現在、この世界に唯一の存在であるのは間違いなかった。

 初めて生まれた、とはっきり書いてあるのだから。

 もちろん、その後にも生まれている可能性はないではないが……唯一無二のそういう存在がいる可能性を念頭におくべきだろう。

 それについては、各国も同じような感覚のようで、《オリジン》については、はっきりとその意味内容が分かるまで、世間には秘匿しておこう、ということになった。

 まぁ、実際のところ、なんとしてでも確保して、自分の国にとって優位な状況を作りたいため、秘密裏に全ての国が探す、というところだが……。

 冒険者が現れたことで、世界は大きく変わっている。

 武力の象徴といえば、以前は核やミサイルだったが、今は冒険者のスキルだ。

 何せ、核ですら魔境を完全に薙ぎ払うことはできないのだから。

 そしてそんな最重要の冒険者の中でも、唯一無二の存在が生まれてしまったというのなら……。

 それを確保できた国こそが、最も強力な力を持つことになる。

 必死にならないわけがなかった。


「何か訝しんでいた記者もいないわけではなかったのですが……前のめりな記者が多かったので、質問の機会が回らなかったのも良かったです」


「回さなかった、の間違いだろう」


「ええ、それは。ただ……っ!?」


 続きを報告しようとした五十嵐だったが、その瞬間、妙な違和感を感じて目を見開く。

 その違和感は、平賀もまた、感じた。

 二人の共通点は、議員でありながらも、冒険者としての経験も持つこと。

 そんな二人が感じる違和感とくれば……。


「……《ステータスプレート》」


 平賀がそういうと、彼の手元に、金属製のカードのようなものが出現したのだった。

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