第44話 ステータスプレート
「……平賀首相、それは……」
五十嵐官房長官が、恐る恐る、と言った様子で平賀に尋ねる。
しかし、それは、平賀の手に収まるカードが何なのか分かっていない、というわけではなく、あくまでも確認に過ぎないことを、二人とも理解していた。
というのも、二人とも、たった今、明確に感じたからだ。
突然、頭の中に《ステータスプレート》というものの存在が認識され、そしてそれをどうやってこの世に顕現させるか、またその使い方や意味合いなど、まるで脳に直接焼き付けられるように、だ。
ただ、それはあくまでも取扱説明書を無理やり全ページ暗記させらたような感覚に近く、一つ一つ考えながらでないと使いこなせるようなものではなさそうだ、というのも同時に理解した。
だからこそ、平賀はまず、《ステータスプレート》をこの世に出現させたのだ。
その方法は簡単だった。
口頭、もしくは頭の中で《ステータスプレート》と念じると、手元にそれが現れる、というもの。
平賀はすぐにそれを行ったのだ。
「……これが例の《ステータスプレート》であるのは疑うべくもあるまい。しかしこのように物質として現れるのは少し意外だったな」
「ええ、ゲームを好む若手の官僚たちはおそらく、立体ホログラムのような形でゲームのステータスのような画面が現れるだろう、という派閥が多かったですからね。まぁ、カード型だ、というのも三割ほどはおりましたが」
「そうだったな。こういうものには若い者の方が馴染むのが早い。これはすぐに浸透するだろうが……とりあえず内容を確認してみなければ。五十嵐くん、とりあえずこれは君にも見えている、という事でいいんだろうな?」
若手の官僚たちの想像では、他人から見えない可能性もある、というものもあった。
最近流行しているゲームや漫画などではそういう傾向があるから、と。
しかし実際には……。
「見えています、首相。しかし、あまり私に見せるのは止したほうが……すぐに細かな内容を暗記したりはできませんが、項目がいくつか見えていますので」
「あぁ、個人情報は出来る限り隠した方がいいと? 確かにそれはそうだが、君は私の盟友の一人だ。今更隠すことなどあるまい……」
「首相……そこまで信頼して頂かなくとも」
「はは……それに、確認するには二人以上必要なこともある。他の者もやるだろうが、少なくとも我々でまずやってしまった方がいい」
「それはそうかもしれませんね……して、項目は……」
そこからは事務的な確認に移った。
途中、慌てた様子で、冒険者としての資質を持っている官僚たちが駆け込んできたが、平賀と五十嵐が既に《ステータスプレート》の確認作業を始めていることを理解し、とりあえず待つことにした。
冒険者省においても既に作業は行われていて、逐一電話で連絡などがひっきりなしに届いてはいたが、再度会見を開くにしても、まずはある程度、これについて理解しなければ話にならないというのもあった。
そして、しばらく調べて分かったことは……。
「まず、名前や年齢の表示はともかくとして、能力値が明確に数値化されているのが面白いな」
「ええ。まるでゲームのようですが……」
その具体的内容は、こうだった。
名前:平賀 慶次
年齢:50
称号:《内閣総理大臣(日本)》《国会議員》……
腕力:150
魔力:74
耐久力:223
敏捷:60
器用:124
精神力:349
保有スキル:《上級盾術》《中級土術》……
保有アーツ:無し
他にも様々な項目があったが、いわゆる医学的な血圧などの数値だったり、戸籍上の本籍地だったりなど、一体どうやってそんな情報を得たのか、という内容が多かった。
ただ、覚えている限り間違いではなく、しかし問題となるのはそこではなさそうだという判断から、まずは冒険者に関係ありそうな項目だけ見ていくことにした。
「これらの数字が高いのか低いのかはいまいち分からんな」
「平賀首相は一時期トップクラスの冒険者でいらした時期がありますから、決して低くないのでは……今でも迷宮に潜られることがあると聞きます」
「……それは誰から聞いた」
「SPの皆さんから。首相なのですから、お身体にはお気をつけていただきたいのですが」
「……そこまで危険なことはしていない。しかし、ふむ……まぁそれなりと思っておこうか。称号はわかりやすいな。社会的地位などがいろいろ記載されている」
「どれほどの地位などから書かれるのでしょうね? それに、社会的地位に限られるとは……あっ、《女の敵》などという項目もありますが」
「……何なんだこのプレートは。ふざけているのか」
「今でもおモテになる、とは聞きますが、本当なのですね……」
「プライバシーのカケラもないな、これは。消せないのか……ん? なるほど、表示させたくない項目は隠せる機能がありそうだな」
「そのようですね。少し意識すると、使い方が頭に浮かんできます……」
「これは、少し調べたくらいでは全容を解明するのは難しそうだ。冒険者省での細かな検証が必要だな」
「はい。また、ある程度明らかになった段階で、また会見が……いえ、今日明日中には開くべきでしょうね。混乱があるでしょうから」
「そうだな。では、手配しなければ」
「はい」
そして、政治家たちは動き出す。
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