第45話 天沢創のステータス

「……こう来たか」


 真夜中、ふと頭痛が走って目が覚めた。

 そしてその瞬間理解したのは、《ステータスプレート》が確かに有効化されたという事実だった。

 テレビでの政府の会見によれば近いうち、という話だったが、こんなタイミングか、という感じだった。


 名前:天沢 創

 年齢:17

 称号:《スキルゼロ》《冒険者見習い》《地球最初のオリジン》……

 腕力:12

 魔力:58

 耐久力:22

 敏捷:24

 器用:697

 精神力:700

 保有スキル:無し

 保有アーツ:《天沢流魔術》


「……は?」


 内容を見て、俺は頭を抱えた。

 もちろん、数字の意味は正直分からない。

 比較対象がないからだ。

 頭の中に無理やり焼き付けられたような取扱説明書じみた内容を探ってみても、数値の意味合いについての知識はないようだ。

 創作物だと、5くらいで一般人、1000超えたら化け物、みたいなそういう基準があるものだが……まぁ、今のところは分からないことにしておこう。

 それにしても、器用と精神力の数値が突出してるのはやはりおかしい気はするが、これがどれくらい変なのかというのは考えてもわかることではない。

 ただ、いつまでもわからない事もないだろう。

 というのも、政府もこの《ステータスプレート》がそのうち有効化されるというのは事前に把握していたわけで、それであるならば、そのうち政府がある程度の情報をまとめて開示してくれるかはずだからだ。 

 少なくとも、今まで、冒険者関係の情報についてはそのようにして国民に、また人類に周知されてきた。

 だからそこについては心配はしていない。

 むしろ、俺が心配すべきは、おそらくは俺特有だろう記載の方だろう。

 まず……。


「……《地球最初のオリジン》? なんだこれ……でも、地球最初ってことは……地球最初ってことだよな?」


 なんだかバカみたいな独り言を言ってしまう。

 以前閣僚でこんな言葉遣いをしてネタにされている人がいたが、人はテンパるとついこんなことを言ってしまうものなのかもしれない、と俺はこの時始めて理解した。

 加えて、


「……あとは、これは極め付けに変だろう……《天沢流魔術》だって? いやいやいや……天沢流って、つまり俺流じゃん……父さんと母さんが実は、とかはないよな? 多分……で、つまりどういうことよ。家元かよ俺は……」


 少なくともそんなものを自ら創始した覚えはないのだが、いや、でも……心当たりが全くないわけでも、ない。

 つまりは……。


「魔力を使って、スキルを発動したことが理由か? あれが《天沢流魔術》……?」


 あり得ない話ではない。

 今世界で、魔術とか魔術師とか言われる人間が使っているものは、たいてい、スキル上では《炎術》とか《土術》と表示されて、魔術、とは書いていない。

 あれはあくまでスキルであって、《魔術》というわけではない?

 俺がやったのが正しい意味で、《魔術》ということか?

 それとも別の意味か……?

 いや、全くわからない。

 あとはやっぱり……。


「《地球最初のオリジン》なぁ……なんか、男の子としては、選ばれし者感がしてワクワクするけど……」


 でもちょっと、恐ろしい気もした。

 この記載が、事実、本当にそのままの意味で、この世でただ一人、俺が《地球最初のオリジン》という何かなのだとしたら……やばくないか?

 俺が国家とかどっかの研究所職員とかだったら、死ぬ気で探して確保して研究対象即解剖コースでは?

 漫画の読みすぎ、陰謀論に浸りすぎ、と言われてしまいそうな想像だが……現在の地球の状況からして、冗談にはならないと思う。

 何せ、世界中に次々と魔境が生まれていて、その数は年々と増えている。

 俺たちは、以前と変わらない日常を送っているような顔をしているが、現実を正確に把握するなら、人類は滅亡への道をゆっくりとただ進んでいるのは間違いない。

 対抗策は、ただ一つ。

 冒険者が戦うことだけ。

 にもかかわらず、その攻防は一進一退どころか、むしろ押し負けつつあるのだ。

 そんな中、何か特別な能力なり何なりを持ってそうなやつを見つけたら……。

 国家が何をするのか。

 わからないわけもない。

 そもそも、これからの人類のことを考えると、そうするのが正しいとすら言える状況に、今はあるのだ。

 しかしかと言って……。


「俺が自発的に身を差し出すかって言われたら、そんなことするわけもないんだよな……」


 人類は大事だ。

 家族も大事だし友達も大事だし国民も大事だろう。

 世界中の人間も、また大事だ。

 でも、やっぱり自分の命も大事にしたいからな……エゴと言われようがなんだろうが、人間、死んだら終わりなのだ。

 本当に、どうしようもなくなるまでは、とりあえず自分大事に生きていきたいと思う。

 人類が厳しい状況とは言え、まだ猶予はあるのだ。

 だから……まぁ、言い訳かもしれないが。

 

 とりあえず、世界を心配するのはこれくらいにして……。


「あとはやっぱり気になるのは、俺のスキルは何もないってことか……ただアーツはある、と。雹菜のところで表示が変だったのはこれが理由か? というか、そもそもアーツってなんだ……?」


 スキルはわかる。

 世界中に知られている、冒険者たちの能力。

 しかしアーツは……聞いたことがないな。

 言葉はもちろん知っている。

 ググればすぐに出てくる。

 スキルは経験や訓練などによる技能、アーツは創造的な技能、みたいな感じのことが……。

 スキルは経験や訓練によるもの?

 まぁ、確かに、言われてみるとそうだな。

 何度も特定の動作や行動などを繰り返して、その結果身につくものである。

 アーツは……俺の《天沢流魔術》は、その意味だと創造的な技能ということになるが……?

 この世に無かったものを、俺が無理やり勝手に考えついてやった、という意味では創造的、だったのかな?

 それともこれもやはり別な意味が……。

 いや、さっぱり分からないな。

 やはり、ちょっとずつ調べていくしかないだろう。

 政府発表も待ちつつ。

 あとは、相談相手がやはり、必要だ。

 今の俺にとって最も信頼できる相談相手は、一人しかいない。

 今から電話を……とか思ったりしなくもないが、流石に真夜中だ。

 明日、学校に行って、放課後あたりに連絡とるか。

 メッセだけ入れて……今日は寝よう。

 そう思ったのだった。

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